交通事故 23 後遺障害① 自賠責が認めなかった後遺障害を認めた裁判例
1 逸失利益と中間利息の控除
例えば、基礎年収600万円の満40歳の男性に後遺障害等級表1級の後遺障害が生じたとする。1級の労働能力喪失率は100%なので、その男性の逸失利益は満67歳まで年600万円になり、単純にこれを合計すれば、
600万円×27=1億6200万円になる。
しかし、この金額1億6200万円は、将来のものなので、一時金としてこの支払を請求するには、ここから複利で年5%の利息が控除されることになる。その計算式は、
600万円×14.6430(ライプニッツ計算方法)=8785万8000円になる。
中間利息控除後の金額は、この場合は、総額の54.42%でしかなくなってしまう。
2 中間利息控除の意味
この計算式によって得られる8785万8000円は、それを所持しておれば、満67歳まで、年利で5%運用でき、しかも、運用益もまた年利5%で運用できる(これが複利計算になる。)という前提に立った金額である。
しかし、低金利の現在、毎年確実に、税引き後で、かつ複利で、年5%の運用益を挙げ得る金融商品などない。
しかし、法律論として、不法行為を原因とする損害賠償請求権は、逸失利益等、実際には事故後に具体化していく損害を含めて、すべての損害が不法行為時に発生したものと観念される(最判昭37.9.4)ために、現在の逸失利益の計算は、一時金になり、したがって、中間利息が控除されるのである。
3 問題
そこで、こんな高い率の中間利息の控除は耐え難いので、一時金ではなく、67歳になるまで毎年、600万円ずつ支払うことを請求できないか?という問題が生ずる。これが定期金賠償問題である。
4 裁判例
定期金賠償は、いわゆる植物状態の被害者の余命認定が困難であることから、将来の介護費用について論じられてきたが、東京地判平15.7.24は、死亡事故に関する事件であるが、定期金賠償を認めた。
この判決は、それを認めた理由の1つとして、「一時金賠償方式においては,実務上,民事法定利率である年5%で中間利息を控除していることから,昨今のように実勢利率が極めて低い水準で推移している状況の下においては,法定利率と実勢利率との乖離の問題が生じているところ,死亡逸失利益についても,定期金賠償方式を採れば,このような中間利息の控除に伴う法定利率と実勢利率との乖離という問題は生じない。したがって,実質的な観点からしても,死亡逸失利益について定期金賠償方式を採る意味があるといえる。」と判示している。
加害者が任意保険に加入している場合は、将来の定期金賠償の支払能力に心配がないので、年5%もの中間利息が引かれる一時金賠償請求ではなく、定期金賠償請求も増えてくるのではないかと思われる。