交通事故 66 ヘルニア
1 意味
人間の首(頚部)の動き(正常範囲)は、一般的に前後方向ともに60°程度とされているが、追突事故などに遭ったとき等、その範囲(筋繊維の生理的可動域)を超えて過伸展、あるいは過屈曲が生じた場合、靭帯など首の周辺の組織が損傷されることがある。むち打ち症とは、この組織の損傷によって生ずる種々の症状をいい、外傷性頸部症候群とも、頸椎捻挫とも言われる。
2 症状
症状としては、急性期と慢性期を含めると、頸部痛、頭痛、めまい、頭部・顔面領域のしびれ、視力低下、視野狭窄、目のかすみ、耳鳴り、難聴、吐き気、四肢のしびれや痛み、それに根気や集中力の低下がある。
なお、このうち、頚部の動脈の血流障害による、めまい・耳鳴り・難聴・かすみ眼・眼精疲労・視力低下・喉のつまり感などの耳鼻科的・眼科的症状はバレ・リュー症候群(頚部交感神経刺激症状)といわれる。
3 特徴
むち打ち症の特徴としては、
①受傷直後ではなく、一定期間経過して、現れる場合が多い
②急性期の症状は、自然に寛解してゆき、一般的には長期化しないで1ヶ月以内に治療が終了する例が約80%を占めると言われている。
③他覚的所見(医学的に証明できること)が乏しく、多くの場合、被害者の愁訴を頼りに、むち打ち症の診断をすることになる。
③したがって、詐病(仮病)が疑われやすい。
④必要かつ相当な治療期間が画像所見から一見明らかとは言えない場合が多いため、治療期間が判断し難い。
①後遺障害等級認定の困難性
等が挙げられる。
4 むち打ち症の関連傷病
頸椎損傷、変形性脊椎傷、頸椎椎間板ヘルニア、脊椎管狭窄症、胸部出口症候群等は、むち打ち症の範域を超えた、より重い後遺障害である。
5 通常傷害としてのむち打ち症の問題点
⑴ むち打ち症そのものが疑われやすいこと(詐病の疑い)
これは他覚的所見(医学的な証明)がないことによる。
⑵ 治療期間の相当性と必要性が争われやすいこと
むち打ち症の一般的な医学的知見として、治療期間は2~3ヶ月程度、事故による追突などの衝撃が強く症状が重いものは6ヶ月程度、場合によりそれ以上、といわれているので、保険会社は治療期間を2~3月を目安に、重篤な場合は6ヶ月を目安にし、それを超える治療期間については治療費の支払いを拒否するなどをしているため、被害者とトラブルになることが多い。
裁判所も、治療期間の認定には厳しい態度をとる。東京地判平10.1.20は、通院約5年間の女性被害者に対し、事故と因果関係のある治療期間を1年間しか認めなかった。
⑶ 治療期間中の慰謝料額が少ない。いわゆる赤い本では、むち打ち症以外の傷害の慰謝料を別表Ⅰとし、むち打ち症の慰謝料を別表Ⅱ(別表Ⅰに比べその7割程度)として、別立てにしているほど。
6 後遺障害としてのむち打ち症の問題点
⑴ 自賠責が認定する後遺障害ランク
ア)12級
むち打ち症の後遺障害等級は、他覚的所見つまり医学的に証明できる場合を12級の「局部に頑固な神経症状を示すもの」とし、
イ)14級
「医学的に説明可能な傷害を残す所見があるもの」又は「医学的に証明されないものであっても、受傷時の状態や治療の経過からその訴えが一応説明のつくものであり、賠償性神経症や故意に誇張された訴えではない、と判断されたもの」のときは、14級になる。
ウ)それ以外は、非該当になる。
⑵ 労働能力喪失期間
裁判例では、多くの場合、12級で10年程度、14級で5年以下とされている。
ちなみに、同じ12級あるいは14級でも、むち打ち症でない場合は、労働能力喪失期間はもっと長く認められている。後遺症固定時21短大生女子の場合、顔面線状痕(12級)について19年間14%の労働能力喪失を認めた大阪地判平11.10.15や、女児の顔面傷跡(12級)につき18歳から67竿まで14%の労働能力喪失を認めた福井地敦賀支判平14.5.17等がある。
併合11級クラスの後遺障害の場合は、概して、67歳まで労働能力喪失期間をみている、といって良い。
7 むち打ち症で、自賠責保険では、後遺障害非該当とされたが、裁判所では該当性をみとめら例
東京地判平16.4.14 非該当→12級など多数ある。