大切にしたいもの いたわり
1 舐犢(しとく)の愛
舐犢の愛という言葉があります。「舐」は舐めるという意味、「犢」は仔牛の意味です。転じて、「親牛が仔牛を舐めるが如く、溺愛する」という意味です。
この言葉は、決して良い意味に使われるものではありませんが、一面、子に対する親の愛が本能に根ざすものであることをよく表している言葉だと言えるでしょう。
2 子は無条件に可愛い
これは親なら、誰しも、1度は、そう思ったことがあるのではないかと思います。
舐犢の愛を注ぐ溺愛型であれ、理性が勝ったスパルタ型であれ、親の子に対する態度は、愛情の表現以外のなにものでもないと思うのです。
3 愛深き故に憎さ深し
俗諺に、可愛さ余って憎さ100倍という言葉がありますが、たしかに、愛が深いと、憎さ、というより怒りの感情が大きくなる場合のあることは、否定できません。
私たち弁護士の事務所に、子供に財産を相続させない方法はないか、という相談が、ときにあります。子供に相続させなくするために、甥、姪に財産を遺贈するという遺言書を書いた人が現実にいます。親が自宅を他人名義に移して、その家から息子夫婦を追い出した、極端な例すらあります。最後のケースは、後、親は、子が親に寄せてくれた愛の深さに自分が犯した罪(財産を他人に与えた罪)を悔い、泣いて子に詫びましたが、覆水盆に返らず、親も子も、自宅を失ったことによる苦労を味わうことになりました。
4 愛と怒りの同居
財産を子に相続させないために他人に与える、というときの親の動機の多くは、子に対する怒りの感情、というより、その怒りの感情を子に伝えることにあるような気がします。
怒りにまかせてその家の大切な物をぶっ壊す、あの感情の爆発と同じだと思うのです。
愛深ければ憎さ深し、ではなく、愛深ければ怒りの感情は大きくなる、というのが正しいとらえ方ではないかと思います。
ただし、このような感情を爆発させる人は、多分に、幼児性を帯びた人と言えるでしょう。しかし、現実にはある程度このような人もいるのです。
5 大切にしたい肉親の愛
これは、あなたが肉親へ向けた愛を大切に、と言っているのではありません。肉親が、あなたに向けている愛を大切にしていただきたいと言っているのです。子はどんな場合でも、親を愛しています。舐犢の愛を注がれ我が儘一杯に育てられ親に対しては我が儘な要求しかしない子であっても、親のしたスパルタ型教育のもとで親に反抗・反発しかしない子であっても、親が自堕落で尊敬に値しないと思っている子であっても、形こそ違え、親に自分をしっかり見て欲しい、親と一緒になって笑い転げたいと、親に必死の愛情を注いでいるのです。
親は、それを、そのときそのときの感情で量るのではなく、子の表現や表面には見られない、その下にある核をしっかり掴まえておくべきなのです。
6 知っておくべきこと
もし、怒りに駆られて子供にその感情をぶつけたくなったとき、このコラムを思い出していただきたいと思います。結果において、あなたを愛する家族から財産を奪い、あなたに愛情を持たない者へその財産を無償で与える愚だけは犯さないようにしていただきたいのです。