民法雑学 4 公立病院における診療債権、水道料金債権など自治体債権の消滅時効期間
A(依頼人)
先生、一千万円ですか?当社の被害は三千万円を超えているのですよ。少なくとも二千万円は支払ってもらわないと困るのです。二千万まで出すように説得して下さい。
B(弁護士)
無理です。相手方Cの代理人であるD弁護士は、当初、弁償金は三百万円しか準備できない、と言っていたのが、Cの親兄弟全員を集めて、示談できないとCは業務上横領罪で逮捕され、実刑になってしまうと皆を説得した結果、Cの長兄と長女の夫が銀行から借金をして、何とか一千万なら作ることにする、と言ってきたものですから、相手方Cの方も、この一千万円というのが限界だと思いますよ。
また、D弁護士も、支払できる金額は一千万円が限界なので、それを超える金額を支払えと言われたときは、この話は御破算にする、その結果三千万円を横領したCが刑事責任を問われ実刑判決を受けることになってもやむを得ない、と言ってきているのですからね。
A(依頼人)
では、先生、一千五百万円ではどうですか?本当は、最低でも二千万円は欲しいのですが、私もさらに譲歩して一千五百万円で納得しますよ。
B弁護士
無理ですね。一千五百万円はおろか一千万円を若干超える位の金銭でも、それを要求すると、この示談は壊れますよ。壊れてもよいのなら、一千万円を超える金額を要求しますけどね。Aさん、この話が壊れてもかまいませんか?
A(依頼人)
とんでもない。私は三千万円も損を蒙っているのです。なんとか少しでも多い金額の弁済を受けたいのです。示談は壊さないで下さい。
B弁護士
ではAさん。D弁護士の提案を受け入れましょう。一千万円で手を打ちましょう。
A(依頼人)
少し考えさせて下さい。私も会社の役員や家内とも相談して決めたいと思いますので。
翌日
A(依頼人)
先生、やっぱり一千万円で納得することはできません。役員も家内も、せめて一千二百万円はもらわないといけない、と言っているのです。先生、強気になって、D弁護士にもう一押し、押して金額を増やすように説得して下さい。
B弁護士
Aさん、あなたが三千万円もの大金をCに横領され、会社も家庭もたいへんな事態になっていることは承知しているつもりです。そして、あなたが一千万円の返済だけでは納得できていないこともね。しかし、今、あなたが一千万円を超える金額の請求をすると、この話は間違いなく壊れますよ。あなたは一千二百万円まで譲歩するつもりになられているのですから、さらに二百万円を譲歩されてはどうですか?
A(依頼人)
それはできません。もう、役員や家内と結論を出したのですから、私も一千二百万円を下回る金額では示談しません。この決心は変わりません。その金額をD弁護士に請求して下さい。
B弁護士
では、やむをえません。今、この場で、私がD弁護士に、電話をしますのでね。聴いていて下さいね。
B弁護士が電話をする。D弁護士の事務員を経てD弁護士が電話に出る。
B弁護士(電話)
ああ、D先生ですか。例のAさんとCさんの件ですが、先生からは、一千万円が限度だということはお聴きしているのですがね、あと二百万円増やしていただけませんか。一千二百万円なら示談は可能なのですけど・・・・・ああ、そうですか。少しお待ちいただけますか
B弁護士(電話を保留にして)
Aさん、今、D弁護士は、私のした話をCに伝えると、示談は壊れるので、私の話は聴かなかったことにしたい。しかし、どうしてもCに伝えろと言われれば、伝えるが、どうか。と質問していますよ。どうされますか?
A では、先生、あと百万円でもいいです。一千百万円で押して下さい。
B弁護士(電話は保留のまま)
Aさん、一千百万円でも、それを請求すると、本当にこの話は壊れますよ。Aさんは一千百万円まで譲歩されたのだから、あと百万円だけの話ではないですか。その百万円をひっこめて下さい。そうしないと、あなたは、一千万円を失ってしまうのですよ。Cには資力信用はなく、Cの兄や姉の夫が見放すと、あなたは一円の支払も受けることが出来ないことになる可能性が大なのですよ。
A
でも、家内や役員が承知しません。一千百万円を請求して下さい。
B弁護士(保留にしていた電話を取って)
D先生、あと百万円だけでも増やしていただけませんか。・・・・ええ、その場合は、やむをえません。Cさんには、先生から、一千百万円なら示談をする。むろん示談が成立すれば、刑事告訴はしないこともお伝え下さい。
その数日後、D弁護士よりB弁護士に電話
D弁護士(電話)
ああ、B先生ですか。私の方からも、あと百万円で円満示談が成立し、Cさんは晴れて刑事責任の問われない立場になるのだから、なんとか百万円を追加して一千百万円を作って示談にしましょうと、Cの兄を説得したのですが、Cの兄の話では、姉の夫にこれ以上迷惑をかけることができず、自分だけで百万円を工面するとなると妻との夫婦関係が壊れてしまう、もともと自分たちが一千万円を作ること自体、無理に無理を重ねたものであったので、Aさんが一千万円での示談を拒否したことでかえって気持ちの整理がついた、この話はなかったことにしてほしい、Cが逮捕され実刑判決を受けても、もうかまわない、と言われました。ですから、この話は、なかったことにして下さい。いろいろお世話になりました。悪しからずご了承下さい。
その日の内に、B弁護士からAにこの話を伝えるや、A夫婦が顔色を変えてBの事務所に飛び込んでくる。
A
先生、一千万円でもかまいません。一千万円で示談しますので、もう一度、D弁護士と交渉して下さい。
その後、B弁護士は、D弁護士に電話をする。D弁護士もCの兄に電話をするなどをしたが、覆水盆に返らずの譬えのとおりになった。