間違えやすい法令用語 25 以前・前・以後・後
1 法令上の用語と意味
許可・特許・認可・免許は、法令上の用語として広く使われていますが、同じ「許可」や「免許」という用語が、すべての法令上で、同じ意味で使われているものではありません。
2 講学上の用語
許可・特許・認可は、「講学上の用語(学問上の用語)」としても使用されており、この場合は、それぞれの用語に同じ意味が与えられています。
ある法令の中に使われている法律用語が、別の法令では違った意味で使われているというようなことは、決して望ましいものではありません。法令の解釈をめぐって混乱も生じます。そのため、法令上の用語とは別に、講学上の用語として、統一した意味内容の用語を設ける必要が生ずるのです。
以下、講学上の用語としての、許可、特許、認可について、解説します。
なお、免許は、講学上の用語としては使われていません。
⑴ 許可
許可とは、「一般的に禁止されていることを解除すること」です。それにより、許可を受けた者は、それまで禁止されていた行為を適法に行うことができるようになります。
例① 講学上の用語である「許可」と法令上の用語が一致する例
風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律(通称「風適法」)3条は「風俗営業を営もうとする者は、・・・都道府県公安委員会の許可を受けなければならない。」と規定しています。この風適法上の営業許可は、講学上の用語の「許可」を意味しています。すなわち、風俗営業は、一般的には禁止されているのですが、公安委員会の許可があると、この禁止が解かれて、適法に風俗営業ができることになるのです。
例② 講学上の用語である「許可」と法令上の用語が一致していない例
道路交通法84条は「自動車・・・を運転しようとする者は、公安委員会の運転免許を受けなければならない。」と規定していますが、この法律の「免許」は講学上の「許可」にあたるのです。
⑵ 特許
特許とは、国民が本来有していない特殊の権利・能力・法的地位を与える行為をいいます。
例① 講学上の用語である「特許」と法令上の用語が一致する例
軌道法3条は「軌道ヲ敷設シテ運輸事業ヲ経営セムトスル者ハ国土交通大臣ノ特許ヲ受クヘシ」と規定していますが、ここに書かれた「特許」は講学上の特許にあたります。
鉄道を使った運輸事業は、誰でも許可を得るとできる、というようなものではなく、国民が本来有していない特殊の権利・能力・法的地位であるとされているのです。
例② 講学上の用語である「特許」と法令上の用語が一致していない例
・ガス事業法3条は「一般ガス事業を営もうとする者は、経済産業大臣の許可を受けなければならない。」と規定していますが、ここに書かれた「許可」は講学上の特許にあたります。ガス事業も、鉄道事業と同じく、誰でも許可を得るとできる、というようなものではなく、国民が本来有していない特殊の権利・能力・法的地位であるとされているのです。
なお、講学上の用語である「特許」に該当するものでも、法令上の用語としては、「特許」が使われることは少なく、「許可」「認可」「免許」という用語が使われる場合が多い、とされています。
ガス事業法の例以外でも、例えば、水道法6条1項「水道事業を経営しようとする者は、厚生労働大臣の認可を受けなければならない。」の「認可」は、講学上の用語である「特許」に該当するのです。
⑶ 認可
認可とは、私人がする契約などの法律行為を補充して、効力を与えることをいいます。
例:
鉄道事業法26条は「鉄道事業の譲渡及び譲受は、国土交通大臣の認可を受けなければ、その効力を生じない。」と規定しています。
この場合、認可を受けなければ、鉄道事業の譲渡契約を結んでも、法律効果は生じないのですが、認可を受けると、譲渡契約の効力が生ずることになるのです。
3 許可と特許の違い
「許可」は、本来誰でも有する自由を回復させる行為ですので、行政庁が自由裁量によって「許可」を拒むことは許されません。許可条件を満たせば、誰に対してでも、許可しなければならないのです。前述の運転免許(運転許可)を考えると分かることです。
しかしながら、「特許」は、運輸事業の特許を考えると分かることですが、公共的あるいは公益的な見地、別の言い方をすれば、政策的な見地から、その者に与えてもよいかを判断して、決めることになりますので、裁量幅は大きくなります。