遺言執行者観に関する謬説がなくなるまで①
1 事実の錯誤は故意を阻却する
猪狩りに行った者が、木の陰で動く物を見て、猪だと思い、鉄砲を撃ったところ、その物は猪ではなく人であった。この場合、鉄砲を撃った者は、殺人あるいは殺人未遂に問われるのか、といいますと、そうではありません。
刑法38条1項本文は「罪を犯す意思がない行為は、罰しない。」と規定していますが、「人」を殺害する意思で鉄砲を撃った者が殺人罪やその未遂罪に問われるのであって、「猪」を殺害する意思で鉄砲を撃った者が「殺人」の罪に問われることはないのです。
「猪」と「人」を見間違ったことを「事実の錯誤」と言います。事実の錯誤は、故意を阻却する、つまり殺人の意思があったとはされないのです。
2 法律の錯誤は故意を阻却しない
上記の例で、鉄砲打ちの狩猟者が、猪狩りをしているときは、人に鉄砲を向けて撃っても許されると考えて、人であることを知りながらその方へ鉄砲を向けて撃った場合、これは「殺人」の罪に問われます。
法律の錯誤は、故意を阻却しないのです。
方の不知はこれを許さずなのです。
3 それが悪いことだとは知らなかったという弁解は通らない
のです。刑法38条3項は「法律を知らなかったとしても、そのことによって、罪を犯す意思がなかったとすることはできない。」と規定しているのです。