遺言執行者観に関する謬説がなくなるまで①
1 代償分割
代償分割とは、相続人の一部の者が現物を取得し、他の相続人には、その現物を取得した相続人が一定の金銭を支払うという分割方法です。
・代償分割の審判が出来る場合として、大阪高決昭54.3.8は、
① 相続財産が細分化を不適当とするものであること
② 共同相続人間に代償金支払いの方法によることにつき争いがないこと
③ 当該相続財産の評価額がおおむね共同相続人間で一致していること
④ 相続財産を取得する相続人に債務の支払能力があること
に限られると判示していますが、実務上は必ずしも②まで要求しているようには思えません。しかしながらその他の要件、特に④の資力要件は絶対に必要な要件です(最決平12.9.7)。
とは言うものの、古い裁判例では、代償金支払い債務が分割払いが認められたケースもあります(神戸家尼崎支審昭48.7.31は、債務を年5分の利息を付けて5年間で支払う内容にしました。新潟家審昭42.7.31は10年割賦にしました。東京家庭裁判所昭和50.3.10審判は、抵当権付きで、弁済に1年半の猶予を与えています。
2 遺言に応用
遺産分割協議で代償分割に至るまでには、紛議と混乱が生ずることが多く、できれば、被相続人が生前、遺言で解決つけておくことが望まれます。
しかし、その場合、遺言者が、相続人に代償金を支払わせる義務を負わせることはできませんので、負担付き又は条件付の遺産分割方法の指定という形を取らざるを得ません。
3 遺言文例(全財産を特定の相続人に相続させる場合)
遺言者は、長男凸山晴彦が他の相続人に次の代償金を支払うことを条件として、全財産を相続させる。
4 遺言文例(特定の財産についてだけ、代償分割的相続をさせたいとき)
遺言者は、その所有する次の財産を、長男凸山晴彦に相続させる。ただし、長男凸山晴彦は、上記相続に対する負担として、長女凹川春子に500万円、二男凸山夏夫に500万円をそれぞれ支払うこと。
5 分割払いの遺言文例
前項で「500万円を支払うこと」とした文章を、「遺言者が死亡した日の属する月の末日を第1回目として、以後毎月末日限り金10万円あてを500万円に達するまで支払うこと」として分割払いを認める内容にしてもかまいません。