遺言執行者観に関する謬説がなくなるまで①
1 遺言の内容
被相続人(母)の遺言書の内容は、推定相続人である長男Aと長女Bのうち、長男Aに「全財産を相続させる」と書いたもの
2 遺言を書いた後の事情
被相続人が1の遺言を書いた後、被相続人が生きている間に、長男Aが死亡しました。長男Aには3人の子がいました。長男のこの3人の子は、被相続人の代襲相続人になります。
3 問題
母が「全財産を長男Aに相続させる」と書いた遺言は、効果が消滅することなく被相続人の「全財産」は、長男Aの3人の子が代襲相続をするのか?それとも、Aの死亡により効果を失うのか?
最高裁判所平成23.2.22判決は、長男Aに全財産を相続させる旨の遺言は、長男Aの死亡によって効力を失った。したがって、被相続人の財産は、前記遺言のない相続として、長男Aの3人の子(Aの代襲相続人)が各1/6(3人でAの1/2の相続分を分け合う)、長女Bが1/2を相続すると判示したのです。
4 包括遺贈との類似性
もし被相続人の遺言が、「全財産を長男Aに遺贈する」と書いたもので、それが法的にも「遺贈」である場合、民法994条1項で「遺贈は、遺言者の死亡以前に受遺者が死亡したときは、その効力を生じない。」との規定がありますので、包括受遺者であるAに子がいても、その子が財産を取得することはできません。
5 本判決の意味
「包括して相続させる」旨の遺言と「包括して遺贈する」との遺言は、法的効果は同じです。そうであれば、4の結論は当然だということになります。最高裁の上記判決はこのことを明らかにしたものです。