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相続 54 持戻し免除の結果、遺留分を侵害することになったとき

菊池捷男

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事例で説明します。
もともと夫は、負債はなく、時価1億円の財産を持っていたとします。
その中でA宅地の時価は6000万円であったとします。
夫は、そのA宅地を長男に生計の資本として生前に贈与した場合(本コラムの例)と、遺言で長男に遺贈すると書いた場合(明日のコラム)に分けて、また、これらの特別受益について持戻しをする場合と、持戻し免除を受けた場合に分けて、解説します。

【A宅地を生前贈与した場合】

第1 特別受益の持戻しをする場合

1 生前贈与
夫が、長男にA宅地(時価6000万円相当)を、生計の資本として贈与した。(a)

2 夫が死亡
 相続人・・・妻と嫡出の長男と嫡出の長女の3人
 法定相続分又は指定相続分・・・遺言による相続分の指定はないので、法定相続分が適用・・・妻1/2、長男1/4、長女1/4
 相続開始時の相続財産・・・4000万円(b)で負債は0

3 みなし相続財産額
相続開始時の相続財産額に贈与の価額を加算したもの・・・(a)+(b)=1億円

4 仮の相続分の計算
みなし相続財産額に法定相続分又は指定相続分を乗じた金額を各相続人ごとに算出)
妻の仮の相続分は、1億円の1/2(法定相続分)=5000万円
長男の仮の相続分は、1億円の1/4(法定相続分)=2500万円
長女の仮の相続分は、1億円の1/4(法定相続分)=2500万円

5 具体的相続分の計算
相続人ごとに、仮の相続分から特別受益金額を控除した数字
この事例では、特別受益者は長男のみ。
妻の具体的相続分・・・5000万円-0=5000万円
長男の具体的相続分・・・2500万円-贈与分6000万円=-3500万円(マイナスの数字は0と扱われる「相続53」参照)
長女の具体的相続分・・・2500万円-0=2500万円
これによる具体的相続分率は、
妻・・・5000÷7500
長女・・2500÷7500

6 各相続人の最終の取得分
相続開始時の相続財産×具体的相続分率
妻・・・4000万円×5000÷7500=2666万円
長女・・4000万円×2500÷7500=1333万円
で分け合います。

7 遺産分割協議
 以上までの計算で、相続開始時の相続財産4000万円については、妻が2666万円、長女が1333万円を取得します。
しかし、現預金ならその通り分け合うことはできますが、現預金以外の財産がある場合は、この後で遺産分割協議に入ります。

第2 長男への生前贈与分につき持戻し免除された場合
1 具体的相続分
この場合は、第1の5の各相続人の具体的相続分の計算から違ってきます。
すなわち、具体的相続分は、相続人ごとに、仮の相続分から特別受益金額を控除した数字を意味しますが、この事例での唯一の特別受益者である長男の生前贈与が、持戻し免除されましたので、結局、仮の相続分から控除するものはなく、具体的相続分は仮の相続分と同額なり、
妻の具体的相続分は、1億円の1/2(法定相続分)=5000万円
長男の具体的相続分は、1億円の1/4(法定相続分)=2500万円
長女の具体的相続分は、1億円の1/4(法定相続分)=2500万円
になります。

2 後の計算
この具体的相続分率は、法定相続分と一致しますので、
各相続人の最終の取得分は、相続開始時の相続財産4000万円の法定相続分を乗じた金額すなわち、
妻・・・4000万円×1/2=2000万円
長男・・4000万円×1/4=1000万円
長女・・4000万円×1/4=1000万円
になります。

第3 遺留分の侵害
1 遺留分の算定の基礎となる財産額
民法1029条は「遺留分は、①被相続人が相続開始の時において有した財産の価額にその②贈与した財産の価額を加えた額から③債務の全額を控除して、これを算定する。」と規定していますので、遺留分算定の基礎になるものは、①相続開始の時において有した財産の価額4000万円に②贈与額6000万円を加えた1億円ということになります。

2 遺留分割合
妻と子が相続人である場合の相続人の遺留分は、法定相続分の1/2ですから
妻・・・1/4
長男・・・1/8
長女・・・18
になり、これを遺留分算定の基礎となる財産額の乗じた数字は
妻・・・2500万円
長男・・1250万円
長女・・1250万円になります。
上記事例では、長男には生前贈与された時価6000万円のA宅地がありますので、遺留分の侵害はありませんが、妻と長女は、妻については500万円、長女については250万円遺留分が侵害されたことになります。

3 問題と裁判例
持戻し免除を受けたケースでは、遺留分算定の基礎となる財産からも、持戻し分を除外するべきではないか?
その場合は、遺留分算定の基礎となる財産額は1億円ではなく4000万円になり、妻の遺留分はその1/4の1000万円、長女の遺留分はその1/8の500万円になるので、遺留分の侵害はないのではないかという疑問が提起された事件で、大阪高裁平成11.6.8判決は、特別受益となる贈与財産につき持戻し免除がなされている場合でも、遺留分の算定の基礎となる財産額の中に当該贈与財産が含まれると判示しています。つまりは、遺留分の算定の基礎となる財産額は、民法1029条の文言通りだというものです。

4 このような遺留分を侵害する持戻し免除は有効なのか?
民法903条3項は「被相続人が前2項の規定と異なった意思を表示したときは、その意思表示は、遺留分に関する規定に違反しない範囲内で、その効力を有する。」と規定していますので、その効力が問題になるのですが、持戻し免除の意思表示をした結果、遺留分を侵害された相続人は、遺留分減殺請求をすることになります。
それは本コラム「相続 45 」で解説したところと同じです。

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