遺言執行者観に関する謬説がなくなるまで①
1 法定相続分による相続登記は、相続人が単独で出来る。
相続人は、各自、相続財産のうちの不動産について、法定相続分での相続登記が出来ます。これは、相続登記が、保存行為になるからです。すなわち、共同相続の場合、相続財産は共同相続人の「共有」になるのですが(民法898条)、共有については、民法252条ただし書きで、「保存行為は、各共有者がすることができる。」と定められているからです。また、相続人の1人に対する債権者からも、債権者代位(民法423条)によって、全相続人について、法定相続分による相続登記が出来ます。
2 法定相続分の登記を第三者名義にすることは可能
また、登記がなされている以上、その登記、すなわち、ここでは法定相続分としての持分登記について、登記手続上は、それを第三者に移転登記することはできます。
次の事件は、そのような方法で、全相続人のために法定相続分による相続登記がなされた不動産について、相続人の1人が、遺言による指定相続分が法定相続分未満であるのに、法定相続分を第三者に譲渡し、その旨の登記手続をしてしまった事件です。
3 問題
問題は、この場合、第三者は、法定相続分を譲渡した相続人から、法定相続分の移転を受けたことになるのか?譲渡した相続人が実際に取得した指定相続分しか移転を受けないのか?という問題です。
4 回答
最高裁判所平成5.7.19判決は、甲は、被相続人から相続分として13/80しか指定されていないのに、法定相続分1/4とする相続登記が経由されていることを利用し、その1/4の持分を乙に譲渡し、乙は右持分の移転登記を経由しているが、甲の登記は持分13/80を超える部分については無権利の登記であり、登記に公信力がない結果、乙が取得した持分は13/80にとどまるというべきである、と判示しました。