遺言執行者観に関する謬説がなくなるまで①
1 指定相続分
民法902条1項本文は、・・「被相続人は、・・・遺言で、共同相続人の相続分を定め・・・ることができる」と規定しています。遺言によって定められた相続分が、すなわち指定相続分です。
2 では、相続分とは?
相続分とは、相続割合をいいます。これは法定相続分を考えると分かりやすいでしょう。
3 法定相続分とは?
法定相続分とは、法律(民法)が定めている相続分のことです。
これは、相続人が誰になるかによって変わります。
法定相続分は、
配偶者と第1位の相続人が相続する場合は、配偶者1/2と子とその代襲者全員で1/2
配偶者と第2位の相続人が相続する場合は、配偶者2/3と直系尊属全員で1/3
配偶者と第3位の相続人が相続する場合は、配偶者3/4と兄弟姉妹とその代襲者全員で1/4になります(民法900条)。
4 指定相続分とは?
指定相続分とは、遺言で指定した相続分のことです。
遺言で相続分を指定しますと、指定された相続人は、法定相続分ではなく、指定相続分を取得することになります。
3 指定の方法
遺言書に書く指定相続分の指定の方法には、抽象的な割合で指定する場合と具体的な財産で指定する場合があります。
⑴ 割合で指定する場合
例えば、「妻の相続分を3/5、長男の相続分と長女の相続分をそれぞれ1/5と指定する。」という遺言書の場合です。この遺言書は、各相続人に、それぞれ法定相続分とは異なる割合の相続分を取得させることになるのです。
⑵ 具体的な財産で指定する場合
また、遺言者が生前、「長男にA宅地を相続させる。長女には○○銀行にある預金のすべてを相続させる。その他の財産はすべて妻に相続させる。」と遺言を書いておれば、A宅地の全財産に対する割合(例えば1/5)が長男の指定相続分、○○銀行の預金の全財産に対する割合(例えば1/5)が長女の指定相続分、その他の財産の全財産に対する割合(例えば3/5)が妻の指定相続分になります。
⑶ 具体的な財産を取得させる遺言を、わざわざ「相続分」という割合にする意味
それは、遺留分を侵害しているかどうかの判断の基準にするためです。
なお、上記の具体的な財産の指定は、同時に「遺産分割方法の指定」でもあります。遺産分割方法の指定」については、別のコラムで解説します。
5 相続分の指定の効果
指定相続分、つまり相続分の指定の効果の1つに、法定相続分を変更する効果があります。
相続人が妻と長男と長女の場合は、法定相続分は、妻が1/2、長男と長寿が各1/4です。が、遺言書に「妻の相続分を3/5、長男の相続分と長女の相続分をそれぞれ1/5と指定する。」と書いてあると、妻の相続分は3/5、長男と長女の相続分は各1/5になり、法定相続分が変更される結果になるのです。