使用者のための労働問題 普通解雇と懲戒解雇の違い
一 対処の原則
原則の1
就業規則に解雇事由、その他の不利益取扱について明記しておくこと。ただし、余りに緩い事由にしないこと
会社の就業規則には、「6ヶ月間に30日以上無断欠勤をした者は懲戒解雇にする。」という規定を置いていたため、その要件を充たすまで、問題社員を解雇できなかったという事例が報告されたことがあります。解雇事由は、もっと厳しくしてもよいと思われます。
原則の2
常日頃、問題があると思える点を注意し、注意した内容を書面に残しておくこと
問題社員に始末書などを書かせておくとよい。場合によっては、戒告などの軽い懲戒処分も必要。
原則の3
感情的な対応をしないこと
多くの解雇事件に共通することですが、会社側が感情的になり、裁判になったときに求められる冷静な対処ができていないことが多いようです。
解雇が無効とされた例に学ぶ
東京地裁平成8.5.27判決は、雇用されて1年の間に無断欠勤が10日、遅刻が19回、無断早退が2回の社員に対する通常解雇を無効にしました。
解雇無効の理由は、①会社自体が時間管理にルーズであり、遅刻、早退について会社はなんら注意をしたことがなかったこと ②無断欠勤10日については退職した上司が退職前に休暇を与えると約束していたのに、後任の上司が拒絶したので、予定の休暇をとったことが無断欠勤になったという弁解を認めたこと、です。
無論、会社の言い分は違っていますが、
①の注意については、それを証明する証拠(書面)がなかったことが問題です。。
② については、後任の上司が感情的になって、社員が提出した休暇願の受領を拒否したことが、不利に働いています。
二 社員の義務―職務専念義務・誠実な業務遂行義務・兼業禁止義務
判例紹介
・外商員の勤務時間中の喫茶店入店行為で懲戒解雇を有効とした事例(東京高裁昭和48.11.8)
・勤務時間中の私用メールの送信(会社施設使用による企業秩序違反行為も伴う)で懲戒処分を有効(東京地裁平成14.2.26判決)
・ 中途採用者は、この義務が加重されている。
「経験者としては達成可能な数字だったのに、実績はこれを大きく下回る。上司の注意指導にもかかわらず、成績を向上させる意欲に欠けている、就業規則の「勤務成績または能力が不良で就業に適しないと認められた場合」に該当するので普通解雇は有効(大阪地裁平成3.11.29)
・使用者との信頼関係を維持する義務
横領の証拠はないが、職務遂行に著しく怠慢、不誠実、発覚後の事情聴取にも非協力的→信頼関係を破壊→解雇は有効(宮崎地裁昭和47.9.4橘百貨店判決)
・職場外で、事実に基づかず、また事実を誇張歪曲して会社を誹謗中傷したビラを配布した→譴責処分を有効(最高裁昭和58.9.8)
・従業員の引き抜き、移転の勧誘などによる独立会社設立準備も不法行為に該当(最高裁平成12.6.16)
・兼業禁止の理由①疲労の加速度的蓄積、事故の発生、労務の提供の不可能性、使用者側の損害発生、各種負担義務の発生の危険性増大(大阪地裁昭和32.11.13)
・報告義務違反
「2年近い期間売上が全くなく、無断欠勤、外出先の報告をしない、労働しているかどうかが不明瞭、上司に対し反抗的、勤務態度改善の意欲もない→解雇は有効(東京地裁平成9.5.15)
・競合会社への企業秘密の漏洩の危険性による企業秩序を乱す行為(名古屋地裁昭和47.4.28懲戒解雇有効)