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拾井央雄

知的財産や技術系法務に強い理系出身の法律のプロ

拾井央雄(ひろいおうゆう) / 弁護士

京都北山特許法律事務所

コラム

【事業者】ノウハウとしての保護

2021年4月14日 公開 / 2021年6月7日更新

テーマ:中小企業の攻め方・守り方

コラムカテゴリ:法律関連


自社の持っている技術により市場で優位性を維持する方法として,特許権を取得することのほか,ノウハウとして保護するという方法があります。どのような場合にノウハウとして保護するのがよいのか,ノウハウとして保護するにはどのようにすればよいのかについて,入口の部分をまとめました。

特許権による保護とノウハウとしての保護

基本的な考え方

自社の技術によって市場で優位性を維持する方法としては、特許権を取得することが頭に浮かびます。
特許権は、模倣品が市場に出た場合、その製造販売を差止めることができる強力な権利です。

しかし、特許を取得するデメリットとして、特許出願によって発明の内容を公開しなければならないことが挙げられます。
ですから、特許権による独占のメリットよりも、発明を公開することによるデメリットの方が大きいと考えられる場合には、特許権を取得するのではなくノウハウとして発明を保護することを検討すべきと言えます。

どんな場合が考えられるか

具体的に、どんな場合でしょうか。

特許出願せずノウハウとして保護することを検討した方がよいと言える例として、「中小・ベンチャー企業知的財産戦略マニュアル(2008年3月特許庁)」に、次のような場合が挙げられています。

① 模倣品を分析しても自社の発明を実施しているかどうか分からない場合。
② 自社の製品の分析によって発明の内容を知られるおそれがない場合。
③ 他社が独自に開発することはほとんど不可能である場合
④ 他社が参入するおそれがない分野である場合

たしかに、①の場合は、特許権侵害として模倣品の製造販売を差し止めることができません。
技術を公開して特許を取っても、あまり意味がありません。

また、自社の製品を分析することによって発明の内容が分かってしまうのであれば、秘密にしておく意味がありません。
ですから、②はノウハウ保護の前提条件と考えられます。

③の場合は,競合他社に発明の内容を教えてしまうことになります。
発明公開によるデメリットが大きいと考えられます。

④の場合は,その分野の市場を独占している状況ですので,権利化によるメリットがあまり考えられません。
その一方で、公開された発明を他の分野に転用される可能性があるということで挙げられているのかなと思います。
しかし、他社がいつまでも参入しないと考えるのはリスクが大きいので、特許化の必要がないと安易に考えない方がいいでしょう。

ノウハウとして保護するには

不正競争防止法上の「営業秘密」としての保護
ノウハウとして保護する場合、どんなことに気を付ける必要があるでしょうか。

当然ですが、ノウハウについて秘密管理を徹底することが必須です。
最低限、不正競争防止法上の「営業秘密」として法的保護を受けられるように、営業秘密管理規程を作りましょう。

不正競争防止法は、「営業秘密」として保護されるために、次の3つを要件としています。

①秘密として管理されていること(秘密管理性)
②有用な技術上又は営業上の情報であること(有用性)
③公然と知られていないものであること(非公然性)

ノウハウとする技術は、②と③に該当している場合がほとんどでしょう。
ですから、①が大切になります。
これについては経済産業省が「営業秘密管理指針」を公表していますので、参考にされるとよいと思います。

先使用権の確保

特許出願しない以上、同じ発明について他社が特許出願して特許権を取得してしまう可能性があります。
そうなるとこちらの製造を差し止められてしまいます。
そのような場合に備えて,先使用権を主張できるように準備しておく必要があります。

つまり、他社の出願前から発明を実施あるいはその準備をしていたことを証明できる証拠を残しておくことです。
先使用権は、先使用の事実から相当の年数が経過した後に主張しなければならない場合が多いと言えます。
そのことを意識して証拠を確保しておかなければ、裁判所で十分な立証ができないということになります。

先使用権の確保については、特許庁が「先使用権制度の円滑な活用に向けて」などの資料を公開していますので、参考にされるとよいかもしれません。

参考条文

特許法
(出願公開)
第64条 特許庁長官は、特許出願の日から1年6月を経過したときは、特許掲載公報の発行をしたものを除き、その特許出願について出願公開をしなければならない。
(先使用による通常実施権)
第79条 特許出願に係る発明の内容を知らないで自らその発明をし、又は特許出願に係る発明の内容を知らないでその発明をした者から知得して、特許出願の際現に日本国内においてその発明の実施である事業をしている者又はその事業の準備をしている者は、その実施又は準備をしている発明及び事業の目的の範囲内において、その特許出願に係る特許権について通常実施権を有する。

不正競争防止法
(定義)
第2条 この法律において「不正競争」とは、次に掲げるものをいう。
十 第4号から前号までに掲げる行為(技術上の秘密(営業秘密のうち、技術上の情報であるものをいう。以下同じ。)を使用する行為に限る。以下この号において「不正使用行為」という。)により生じた物を譲渡し、引き渡し、譲渡若しくは引渡しのために展示し、輸出し、輸入し、又は電気通信回線を通じて提供する行為 6 この法律において「営業秘密」とは、秘密として管理されている生産方法、販売方法その他の事業活動に有用な技術上又は営業上の情報であって、公然と知られていないものをいう。

この記事を書いたプロ

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