
コラム
法律アップデート|プロバイダ責任制限法改正法案について
2021年4月6日 公開 / 2021年4月7日更新
発信者情報開示請求の現状
インターネット上の誹謗中傷が社会的な問題となっています。
インターネットで被害を受けた場合に損害賠償請求をしようとすると、まず誹謗中傷投稿をしたのが誰かを突き止めなければなりません。
それには、まず誹謗中傷投稿がされたコンテンツプロバイダに対して、誹謗中傷投稿をした際のIPアドレス等の発信者情報開示を求める必要があります。
そして次に,開示されたIPアドレス等の情報に基づいて,投稿者が利用したアクセスプロバイダを特定し,そのアクセスプロバイダに投稿者が誰かの開示を請求するのが一般的です。
特定した投稿者に対する損害賠償請求は,さらにその後ということになります。
コンテンツプロバイダやアクセスプロバイダは,安易に情報を開示すると発信者側から権利侵害を主張されるおそれから,裁判手続きを経なければ情報を開示しないのが通常です。
したがって、投稿者を特定するのに2段階の訴訟手続が必要となり,被害者にとって負担が大きいという問題がありました。
そこで昨年の8月には,twitterなどのコンテンツプロバイダに対し,本人確認のために保有している電話番号の開示を請求できるようにする省令の改正が施行されました。
電話番号が開示されると,弁護士会照会によって本人の特定をできる場合がありますので,アクセスプロバイダに対する訴訟が不要になります。
しかし,電話番号を保有していないコンテンツプロバイダに対しては従来と変わりがありません。
また、ログインしてから投稿するSNSなどでは、投稿時の情報を保存していない場合があります。
そのような場合に発信者を特定しようとするとログイン時の情報が必要になりますが、ログインで権利侵害がされたわけではないので、条文に従えばログイン時の発信者情報の開示を求めることができないという問題がありました。
発信者情報開示命令の申立て
以上の問題意識から、改正法案では発信者情報開示のための新たな裁判手続きの創設が予定されています。
法律案からしますと、新たな手続きのイメージは,およそ次のような流れになるものと考えられます。
まず、インターネットに自らを誹謗中傷する投稿がされた場合、裁判所に、コンテンツプロバイダに対する発信者情報開示命令の申立てを行います。
そしてこの開示命令の申立てと並行して、アクセスプロバイダが発信者情報を消去するのを防止するため、コンテンツプロバイダに対する提供命令の申立てを行います。
裁判所がその必要性を認めれば、コンテンツプロバイダに対して提供命令を発出します。
コンテンツプロバイダがアクセスプロバイダの名称や住所を特定ができる場合、コンテンツプロバイダは、提供命令に従い、アクセスプロバイダの名称や住所を申立人に提供します。
申立人は、コンテンツプロバイダから提供を受けた情報を利用して、アクセスプロバイダに対し、発信者情報開示命令の申立てを行い、その旨をコンテンツプロバイダに通知します。
この通知を受けたコンテンツプロバイダは、先の提供命令に従い、自身が保有する発信者情報をアクセスプロバイダに提供します。
コンテンツプロバイダの保有する発信者情報が、この段階で申立人に開示されることはありません。
さらに、アクセスプロバイダに発信者情報開示命令の申立てをした申立人は、アクセスプロバイダにに対し、発信者情報について消去禁止命令の申立てを行います。
裁判所がその必要性を認めれば、アクセスプロバイダに対して発信者情報の消去禁止命令を発出します。
アクセスプロバイダは、この命令にしたがって、コンテンツプロバイダから提供された発信者情報に基づき、保有している発信者情報を保全します。
最終的に、裁判所が発信者情報開示請求の要件を満たすと認めた場合、コンテンツプロバイダ及びアクセスプロバイダに対し、発信者情報開示命令を発出することになります。
ログイン通信に関する発信者情報の開示
開示される発信者情報は、従来の発信者情報の他、ログイン通信に関する発信者情報についても定められています。
要件としては、権利侵害が明らかで、発信者情報の開示を受ける正当な理由がある場合は、従来の発信者情報が開示されます。これは、従来どおりです。
ログイン時情報について、上記と同じ要件で、ログイン通信に利用されたアクセスプロバイダに対する開示請求が可能となっています。
さらに、コンテンツプロバイダが投稿時の発信者情報を保有していないとき、アクセスプロバイダを特定できる発信者情報も発信者の氏名住所も保有していないとき、又は開示を受けた投稿時の発信者情報によって発信者を特定できないときは、コンテンツプロバイダに対してログイン通信に関する発信者情報の開示が請求できます。
管轄
管轄についての改正もされています。
相手方の営業所が日本国内になくても、日本国内において事業を行う相手方に対する国内における業務に関する申立ては、日本の裁判所にすることができます。
また、意匠権や商標権に関する訴えの管轄と同様に、東日本は東京地裁、西日本は大阪地裁にも管轄が生じることとされています。
ただし、特許権やプログラム著作権が侵害されたとする発信者情報開示命令の申立ては、特許権等の訴えの管轄と同様に、東京地裁又は大阪地裁が専属管轄になります。
異議の訴え
そして開示命令に対し、その告知を受けた日から1か月の間に、発令した裁判所に異議の訴えを提起することができます。
異議の訴えが提起されなければ、開示命令は確定判決と同一の効力を有することになります。
おわりに
コンテンツプロバイダに対する開示命令の申立てをすれば、必ずアクセスプロバイダに対して開示命令の申立てしなければならないということはありません。
コンテンツプロバイダに発信者情報を開示してもらって、その後自分でアクセスプロバイダを特定するという方法もあり得ます。
現在の訴訟手続きもそのまま残りますので、従来どおりの方法で発信者情報を取得することもできます。
相手方のコンテンツプロバイダが協力的かなどに応じて、当初は試行錯誤が必要かもしれません。
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