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その音楽アプリも違法? 悪質なリーチサイト・リーチアプリを規制する改正著作権法が10月1日施行。リンクの投稿も規制対象に?

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法律関連

インターネット上に横行する海賊版サイト対策の強化などを目的とした、改正著作権法が2020年6月5日に参議院において可決・成立。改正事項のうち、違法コンテンツに誘引する「リーチサイト」「リーチアプリ」に関する規制が10月1日に施行されました。これにより、著作物を直接利用する行為だけでなく、違法コンテンツにユーザーを誘引する行為も規制の対象となります。

近年では、多くのネットユーザーが、動画や音楽、マンガなどの無料違法コンテンツを利用している実態があります。一例として、日本レコード協会の調査によると、「リーチアプリ」にあたる無許諾音楽アプリの推計利用者は246万人にのぼるといわれており、今回の法改正で、アーティストや制作現場が本来得るべき利益を守ることが期待されています。

法改正により、具体的にどのような行為が違法とみなされるのでしょうか。今後ユーザーが気をつけるべき点とは? 弁護士の拾井央雄さんに聞きました。

ユーザーを海賊版サイトに誘引する行為が規制の対象に。違法コンテンツへのリンクを提供し、有罪と認められた場合は3年以下の懲役・300万円以下の罰金

Q1:10月1日に施行された「リーチサイト・リーチアプリ対策」について、まずは法改正の背景を教えてください。
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近年、マンガや音楽、動画などのコンテンツを違法にアップロードした海賊版サイトの影響で、著作者や制作会社の売上が減少するという被害が相次ぎました。こうした違法コンテンツへのアクセスによる被害は、ユーザーを誘導する「リーチサイト」が広げていると言われており、コンテンツ産業に重大なダメージを与えるものとして問題視されてきたのです。

Q2:「リーチサイト」「リーチアプリ」とはどのようなものでしょうか? 若年層に人気の無料音楽アプリのなかにも、今回の規制の対象となる「リーチアプリ」があり、利用していた人は多いようです。
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リーチサイトとは、海賊版サイトへのリンクを掲載するWebサイトの総称です。「リーチ」は「ヒル」を意味する「leech」に由来していて、ヒルが吸血するように、他人の財産を食いものにするという意味でも使われています。つまり「他人の著作権を食いものにするサイト」という意味合いです。

リーチサイト自体には直接著作物が掲載されておらず、運営者は「海賊版にリンクを張っただけで、自らが著作物をアップロードしたわけではないから、著作権侵害にはあたらない」という主張のもと、サイトの運営を続けてきました。リーチアプリとよばれる無許諾音楽アプリも仕組みは同様です。運営者は「アプリ自体はリンク先を提供しているだけで、著作権侵害にはあたらない」と主張し、利用者を増やし続けてきました。

このようなリーチサイト・リーチアプリが、違法コンテンツによる被害を助長しているにも関わらず、従来の著作権法では責任を問うことが難しかったのですが、今回の法改正により、一定の要件下で違法性が認められることになったのです。

Q3:今回の法改正で、具体的にどのような行為が違法と判断されるのでしょうか?
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今回の法改正によって、新たに以下の行為が規制の対象とされます。

①違法サイトの運営やアプリを提供する行為
②違法にアップロードされたコンテンツへのリンクを違法サイトやアプリに提供する行為
③違法サイトの運営者やアプリ提供者が違法コンテンツへのリンクを放置する行為

①②には刑事罰が導入されます(①は5年以下の懲役もしくは500万円以下の罰金、またはその両方、②は3年以下の懲役もしくは300万円以下の罰金、またはその両方)。

②③は著作権侵害とみなされ、差止請求や損害賠償請求が可能となります。

Q4:なぜ、リーチサイト・リーチアプリのような悪質なコンテンツが増えてしまったのでしょうか?
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海賊版サイトは無料で利用できますが、ダウンロード速度やダウンロード回数の制限を解除するための課金制度があり、これが運営者の利益となっていました。

運営者は課金を増やすため、著作物のデータをアップロードした投稿者に対し、ダウンロード数に応じた報奨金を支給していました。その結果、報奨金を目当てにした人たちが次々と人気作品のデータをアップロードし、違法コンテンツが増殖。ダウンロード数を増やすために、アクセスを誘導するリーチサイトをさらに拡散していったという仕組みです。

また、リーチサイト運営者・リーチアプリ提供者には、コンテンツの閲覧数に応じて広告収入が入るため、ここからも多額の収益を得ていたと考えられます。

悪質なリーチサイトは、権利者から削除要請を受けても、再掲載を繰り返してきました。リーチアプリも同様で、アプリストアがアプリを削除しても、アプリ名を変更するなどして再出品されるといったことが続き、拡散を防ぐことは極めて困難だったといえます。

Q5:無料マンガサイトや無料音楽アプリのリンクをまとめて、SNSやブログ等で発信している人がいますが、もし掲載したリンク先が違法サイト・アプリであった場合、発信者の行為は刑事罰の対象になるのでしょうか?
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違法サイト・アプリへのリンクが違法コンテンツへの誘導にあたると言えるような場合には、態様によって規制対象となることも考えられます。

Q6:リーチサイト・リーチアプリを経由し、違法コンテンツを視聴・閲覧、ダウンロードしてしまった場合、刑事罰の対象になるのでしょうか?
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私的使用目的であっても、違法コンテンツであることを知って動画や音楽をダウンロードする行為に対しては、既に刑事罰を適用する法改正がされており、2014年10月1日に施行されています。2年以下の懲役または200万円の罰金、もしくはその両方が科せられます。

視聴・閲覧するだけでは刑事罰の対象になりませんが、ユーザーは少なくとも視聴・閲覧している対象が違法コンテンツであることを認識しておくべきでしょう。

Q7:今回の法改正で、悪質なリーチサイト・リーチアプリは減少すると考えられますか?今後、ユーザーが気を付けるべきポイントは?
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海賊版へのアクセスの入り口となるリーチサイト・リーチアプリの違法性が明確に示されたことで、ある程度の抑止効果は期待できるのではないでしょうか。違法コンテンツの利用は、正規のコンテンツを直接に毀損するわけではないので、利用者は罪悪感を覚えにくいかもしれません。しかしながら、ユーザーは「人の創作物を利用するには正当な対価を支払うことが必要」という当たり前の認識を持つことが大切です。

無料のコンテンツに飛びつくことは、作家やアーティストの将来の創作活動を阻害する上、インターネット規制の強化にもつながります。違法コンテンツを利用することは、利己的かつ刹那的な考えであることに気付く必要があるのではないでしょうか。

拾井央雄

知的財産や技術系法務に強い理系出身の法律のプロ

弁護士

拾井央雄さん(京都北山特許法律事務所)

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