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今日の運勢、12位【漢方的ご自愛短編小説】

早川弘太

早川弘太

テーマ:漢方的ご自愛短編小説

 その朝、里帆は自宅のマンションを出かける直前に

本当に無意識にスマートフォンで星座占いを開いてしまった。

数日前に細木数子のドラマをほろ酔い加減で見ている最中に気まぐれで入れたアプリだ。

開かなければよかった、と里帆はその後に後悔することになるのだが

その時点ではまだそんなことに気がついてはいなかった。

 《今日の占い〜12星座カウントダウン》

実にどうでもいい名前、なくなっても誰ひとり困らないであろう、その占いアプリの画面には、ハッキリとこんな風に書いてあった。

「おとめ座。今日の運勢、12位。全体的に流れが停滞しています。新しいことを始めるには不向きな一日。特に対人関係に注意。言葉が思わぬ誤解を招くかもしれません。ラッキーカラーは灰色。ラッキーアイテムは特になし。」

 ラッキーカラーが灰色、というだけでテンションが下がりそうだが

ラッキーアイテムが「特になし」というのは、里帆は生まれてから二十六年間のそれほど長くない人生ではあるし

確かに占いもそう多くは見てはいないが

それなりの人生と人並みには占いは見ているはずなのだが

こんな結果は初めて目にした。

「特になしって・・・」

そんなことがあるのだろうか。

せめてどら焼きとか、赤い傘とか、群青色のセーターとか、猫のプリント入りのエコバックとか

使わずに冷蔵庫に眠っていた納豆の辛子とか

何か一つくらいあってもいいのではないか。

 里帆は駅のホームで電車を待ちながら、なんとなく灰色のものを探した。コンクリートの柱。くもり空。

隣に立っている、こう言っては何だがあまりぱっとしない感じの

おじさんなのか、若いのか、良くわからない

見た目の冴えない会社員のスーツ。

世界は思ったより灰色に満ちている。

そしてその日

里帆は三年ぶりに元彼の健児と再会した。

再会、というより、鉢合わせた、というほうが正確だった。

乗り換えの駅の改札を出たところで、向こうから歩いてきた人間が健児だったのだ。

 「あ」と里帆は言った。

 「あ」と健児も言った。

 二人は三秒ほど、改札の人の流れの中で立ち止まった。

周囲のサラリーマンや学生たちが二人の脇を通り過ぎていく。

 別れたのは記憶が正しければ里帆から告げたはずだ。

別れた理由は曖昧なままだった。

健児はたぶん傷ついたと思う。

里帆もそれなりに傷ついた。

別れ方は曖昧なのにお互いをなんとなく傷つけてしまう。

世の中のカップルの別れ方の6割ぐらいはそんな感じであろうと思われる。

兎にも角にも二人はそういう別れ方をしたのだ。

 「久しぶりだね」と健児が先に言った。

 「うん」と里帆は答えた。「元気?」

 「まあまあだよ」と健児は言った。「そっちは?調子はどう?」

 「まあまあね。」と里帆も言った。

 会話がそこで止まった。

今朝の占いが里帆の頭に浮かんだ。

「言葉が思わぬ誤解を招くかもしれません。」

余計なことを言うな、と誰かに耳元で囁かれているような気がした。

 「コーヒー、でもちょっと飲む?」と健児が言った。「時間あればだけど?」

 里帆は少し迷って、「うん、時間は大丈夫だから飲んでいこうか」と言った。

 駅直結のビルの四階に、窓際の席が多いカフェがあった。二人はカウンター席に並んで座り

健児は産地を言われても、品種を言われてもイマイチピンとこない日替わりのホットコーヒーを注文し

里帆はちょっと悩んでホットのゆずシトラスティーのショートサイズを注文した。

 「今日って、休み?」と健児が聞いた。

 「午前中は在宅勤務で、出社は午後からでよかったから、ちょっと遅い出勤なのよ」

 「それでこんな時間に駅にいて、偶然会えたわけだ。」

そう健児が言ったあと、しばらく二人は窓の外を見ていた。

空はまだくもっていて、遠くのビルが霞んで見えた。

里帆は思った。灰色って静かな色。悪くない。

灰色に対してそんな感情を抱いたのは初めてのことだった。

 「・・・・なんかさ、俺に言いたいことあったら言っていいよ。」と健児が言った。

「・・・・三年前のこと」

 里帆は驚いて健児の横顔を見た。

健児はコーヒーカップを両手で包んだまま、窓の外の灰色の景色を見ていた。

「言いたいことって?」

「ちゃんと話せなかっただろ、あのとき。俺も言えなかったし、里帆も言えてないと思ってさ。」

里帆は何故かそのとき今朝の占いのことを思い出していた。

言葉が思わぬ誤解を招くかもしれません。

でもよく考えたら、三年間ずっと誤解したままなのだ。

これ以上お互い何をどう誤解するというのだろう。

「ごめんって、ちゃんと言えてなかったと思う」と里帆は言った。「傷つけたよね、あのやり方は」

 健児は少し間を置いて、「俺も悪かった」と言った。「気づいてあげられなかったことがたくさんあったしね。」

 コーヒーを飲み終えて、二人は改札の前で別れた。

連絡先を交換するわけでも、また会う約束をするわけでもなく

ただ「じゃあ」と言って、それぞれの方向に歩いた。

里帆は歩きながら、スマートフォンを取り出し、もう一度、例の占いアプリを開いた。

 言葉が思わぬ誤解を招くかもしれません。

 ああ、と里帆は思った。

これは「誤解を招く」ではなくて、「誤解が解けた」ということだったのかもしれない。

占いというのはわりと曖昧に書いてあるものだから、どう読んでも間違いではない。

だとしたら、都合よく読んだほうがいい。

今日の運勢、12位。ラッキーアイテムは特になし。

ラッキーがない代わりにアンラッキーもない。

良くも悪くもないが決して悪い一日ではなかった。

里帆はそんな事を考えながら

いつもよりちょっと注意深く、会社に向かって歩き出した。

物語の中にもありましたが、里帆が今朝の占いをどう受け取ったか、少し振り返ってみましょう。

「言葉が思わぬ誤解を招くかもしれません」

という一言が、彼女に「余計なことを言うな」というブレーキをかけました。

そのおかげで、久しぶりの再会でも焦らず、相手の言葉をちゃんと待つことができた。

そして物語の最後では、同じ言葉を

「誤解が解けた」

とポジティブに読み直して、今日という一日を肯定的に捉えることができました。

占いというのは、書いてあること自体がわりと曖昧なものです。

だからこそ、受け取る側の心の状態が大きく影響します。

体が疲れていたり、気持ちが落ち込んでいるときは、どんな言葉もネガティブに見えてしまう。

脳内のセロトニンがしっかり働いてないと思考がマイナスに傾きがちです。

これは意志の問題というより、カラダの問題でもあります。

思考がマイナスになっている時はどんな良いことでも裏を読んで、先を読みすぎて、ネガティブに捉えてしまいます。占いが1位でも、スーパーラッキーデーと出ていても

「これぐらいの1日で1位なんて、これからはもっとろくでもない日になるに違いない。1位でこれだもんな・・・ 」とプラスには受け取れません。

だから、占いや誰かからのアドバイスに

「嫌なこと」

が書いてあったとしても、それを「最悪の事態が起こる予言」として受け取るのではなく

「事前に注意を促してくれているメッセージ」として活用するのが、いちばん賢いやり方だと僕は思います。

「金運が低下する」と書いてあれば、お金の使い方を一度立ち止まって考えるきっかけに。

「健康に注意」と書いてあれば、日々の養生を見直すきっかけに。

どんな内容も、自分の都合のいいほうに解釈して、生活の中に活かしていく。占いとはそういう使い方をするものだと思います。

「大きな病気をする」って占いに書いてあっても生活に気をつけることで避けることができればOKですよね。

漢方の相談をしていても、同じようなことを感じます。

体質や気質、生活環境を丁寧に聞いていくと、その方のカラダの弱いところや、季節ごとに注意したいことが自然と見えてきます。

「梅雨時は脾に負担がかかりやすいですよ」

「今の状態が続くと、こういうトラブルが出やすいですよ」

とお伝えするのも、いわば「転ばぬ先の杖」で、まだ起きてないことを予測する、と言う意味では占い師の方がされていることも、僕らが予防してほしいことで伝えることも

根本は同じなのかもしれません。

里帆は最後、12位という最悪の運勢を

「悪い一日ではなかった」と締めくくりました。

里帆は12位でこのような1日です。明日からはもっと良い日に違いない、って思えますよね。

占いの結果がよくても悪くても、一日の終わりにそう思えるかどうか。

それはきっと、占いの精度よりも、受け取り方の習慣で決まるものだと思っています。

占いは上手に人生に、心の健康に活用しましょうね。

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早川弘太
専門家

早川弘太(販売職)

株式会社 沢田屋薬局

医療機関などでは、忙しくてなかなか話を聞いてもらえなかったご経験ありませんか?まずお客様のお話をゆっくりとお聞きさせていただき、一緒に不調の原因を考えていきます。漢方相談と健康相談を行っています。

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