『プリンを食べない男たち』―後編:そして、スプーンは静かに動いた― 山梨 漢方 さわたや薬房 メンタル 薬膳 健康 スイーツ
やすおは困惑していた。
なぜなら鼻がどん詰まりだからである。
これは鼻炎に苦しむある男の物語。
『フレッシュストロベリーとバナナのアイスラテをください。』
まさかこの1杯がやすおのその後の運命を変えるとは
その時、やすおはいささかも思ってもいなかった。
でも確実にこの1杯がやすおの運命を変えたのだ。
やすおはその日朝から困惑していた。
鼻がどん詰まりだったからだ。
鷲っ鼻のやすおにとって鼻炎は鬼門の症状だ。
寒暖差のせいだろうか?
ここ数日夜ふかししてNetflixでドラマを見続けたせいか?
もしくは調子に乗って3日連続でエビチリを食べ続けたからだろうか?
とにかくやすおの鼻はトレードマークのメガネが浮くぐらいどん詰まりだった。
その日やすおは夜に気乗りはしなかったが、どうしても参加しなくては行けない仕事絡みの飲み会があったのだ(彼にも気乗りしない日だってあるのだ)。
そんな憂鬱な気分を取り除こうとと
飲み会に行く前に最近四ツ谷の駅前に新しくできたカフェに入ることにした。
そこでやすおの目に飛び込んできたのが
『フレッシュストロベリーとバナナのアイスラテ』だったのだ。
クリっとした目が特徴的な、美人、と言うよりも愛嬌のあるステキな女性店員がブラックボードに広告を書いていた。
その女性店員がやすおに気づくと彼女はニッコリと笑い
『新商品です、とってもおすすめで私も大好きなんです。よかったらいかがですか?』
っとチャーミング、そう、チャーミングという言葉がこれほどしっくり来る笑顔は早々お目にかかれないというステキな笑顔で声をかけられると
『優しさがLOEWEの服を着て歩いてる』
と言われるぐらい人が優しいやすおにとって彼女からの提案を
『断る』
という選択肢はなかった。
やすおは彼としては極上にチャーミングな笑顔を浮かべながら(彼も50代のオジサンにしてはわりとチャーミングなのだ)
『フレッシュストロベリーとバナナのアイスラテをトールサイズで』
と注文した。
少し時間がかかるということで店内のソファーに座って待つように促された。
店内には誰の演奏なのかは不明だがそれなりに心地よい、作業や読書や会話のじゃまにならないいかにもな『カフェミュージック』が流れていた。
向かい側の席では女子大生がイヤホンをしながらノートに何かをびっしり書いていた。
その隣には『ノマドワーカー』と画像検索したら一発で出てきそうな雰囲気を醸し出した30代ぐらいの男性がMacBookと向き合っていた。
ブラックボードに新商品の案内を書いていたチャーミングな女性は年配の男性客と談笑していた。きっとあの男性もやすおと同じ新商品を頼むのだろう。
世の中はそういう風にできているのだ。
チャーミングな女性スタッフから勧めらた商品を断ることは
王将に行って餃子を食べないぐらい
マクドナルドでポテトを食べないぐらい
国技館に行って焼き鳥を食べないのと同じぐらいありえないことなのだ。
そんなどうでもいいことをやすおは考えながら
ソファーにカラダを沈めて数分立つと例のラテが届いた。
キリッと冷えたアイスラテだ。
『悪くない』
やすおはそう呟いた。
普段はキリッと冷えたビール(彼は黒ラベルを好んでいた)しか飲まないやすおだが、たまにはアイスラテを、しかもフレッシュな生のイチゴとバナナがたっぷり入ったラテだって飲むのだ。
伊達にLOEWEは着こなしていない。
そんなやすおのカラダにしばらくすると異変が起きた。
鼻炎が悪化したのだ・・・・
鼻炎が悪化してやすおの鼻はさらにどん詰まりとなり、鼻背がどんどん腫れ上がって鷲鼻に加えて団子鼻にまでなってきた。
典型的はひどい副鼻腔炎の鼻だ。
必死に口呼吸をしながら
酸欠で薄れゆく意識の中で
やすおはあることを思い出した。
『イチゴやバナナはヒスタミンの放出の引き金となりアレルギー鼻炎を悪化させることがある』という事実
そして『体の冷え、特に胃腸の冷えは鼻炎を悪化させる』ということも。しかも使用された果物は火が通っていないフレッシュな状態だ。
加熱した果物だとアレルギー症状が薄まるがフレッシュな生の状態で
しかもこれ以上なくキンキンに冷えてやがる。
そもそもそれがこのラテの特徴なのだ。
フレッシュで、キンキンに冷えている。
当然アレルギーは悪化する。
時間の経過と共にやすおはほぼ鼻呼吸できない状態となっていた。
やすおの体内の一酸化窒素(NO)は空っぽになりつつあった。
(鼻から呼吸すると、副鼻腔で生成された一酸化窒素が肺に送られます。この一酸化窒素には血管を拡張させて血流を促し、全身の酸素吸収を効率化する重要な働きがあるのだ)
酸欠とNO不足で朦朧とする意識の中で、やすおはあることに思いを馳せていた。
『今夜の飲み会は休もう。』
これでアルコールと油っこい食べ物が加わるとやすおの鼻はしばらく通ることはないであろう。漢方的には脂っこいものと過剰な水分は「痰湿」や「湿熱」と言ってカラダの中をドロドロにして取り返しがつかないぐらい鼻炎はひどくなる。
そんなわけで脂っこいものと過剰な冷たい水分、どちらも副鼻腔炎の大敵だからだ。やすおは最後の力を振りカフェからでると虚ろな目とおぼつかない足取りで四ツ谷駅に向かい歩き始めた。
『とりあえず帰ったら温かい風呂に入ろう。話はそれからだ。そしてしっかりカルシウムを補給して、温かいベッドでゆっくり寝よう。話はそれからだ。』
そう小さくつぶやきながらカフェを出ると、出口付近で例のブラックボードを書いていたチャーミングな店員が
『ありがとうございました!いかがでしたか?来月の新商品は桃と林檎のヨーグルトシェイクラテです!ぜひまたお越しくださいね!』
やすおは力なく微笑みながら彼女には聞こえないぐらいの小さな声で
『それもダメなんだよ』
っとつぶやくと
やすおは一人家路への道を急いだ。
完
※この物語はフィクションであり実在する人物などとは一切関係ありません。
鼻炎持ちの方、アレルギー体質の方は生の果物、野菜、魚などの摂りすぎと冷たいもの、油っこいものは控えましょうね。
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