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寺田淳

シニア世代が直面する仕事と家庭の問題解決をサポートする行政書士

寺田淳(てらだあつし) / 行政書士

寺田淳行政書士事務所

コラム

聞き上手は聞き(取り)上手

2023年6月30日 公開 / 2023年7月3日更新

テーマ:新橋事務所日記

コラムカテゴリ:ビジネス


【はじめに】

 聞き上手と言えば、その人の長所、誉め言葉と言われますね。
ですが、相手の話を黙って最後の最後まで聞いていること、
相手に自由に話させることが聞き上手と言っていいのでしょうか?

 同様に、話し上手というと、下手をすればワンマンショーで
内容は確かに面白く、興味を引くものであってもそれは「会話」ではないのです。

 今日はこの点についての私の考えを述べたいと思います。

【話し上手よりは聞き上手になれ】

 最初に言われたのは、
新人会社員として配属された部署の先輩からでした。
その後起業・独立を果たし、相談業務を主な仕事として始めた時にも
同業の先輩から言われた言葉です。

 まず会社員時代、特に営業マン時代には
「まずは先方の話から始めさせること」
どういった要望があるのか、どういう不満があるのかを
相手から話させることが交渉事の鉄則と言われました。

 相手から話させる為にはどうしたらいいか?
「相手が話したくなるような聞き手になること」だとも。

 この経験があったから相談業務を始めた際に、
比較的容易に相談者の本音を聞き出すことが出来たと思います。

 よくある失敗例としては、自称話し上手なタイプにありがちです。
事前にリサーチしておき、相手はこういう要望を持っていると想定し、
あるいは勝手に決めつけて、挨拶直後から口火を切ってしまうケースです。

 ごくまれに、ジャストフィットな想定だったことで
一気に自分のペースで交渉を進められることも無いとは言いません。

 ですが私が見知った範囲では、思い切り勘違いや優先順位のミスで
逆鱗に触れるケースが目立ってました。

 たとえ相手の話す内容を事前に120%把握し、ベストな回答を用意していても
まずは相手の話を聞くことを優先する事が大切なのです。

【目指すべき聞き上手とはどういうものか?】

意識すべきは、「聞き上手よりも聞き取り上手」になることです。

 ただひたすら相手の話を延々と聞くことが出来る。
これが聞き上手とは私は思いません。

 今携わっている相談業務の場合では、
多くの場合、相談者は要点をまとめないまま訪問するケースが目立ちます。
話を進めながら、ランダムに不安要因や問題点を乱発、又は繰り返すのです。
時系列は行ったり来たり、対象の相手がいつの間にか1人から2人へ増えたり…

 よく人の話を聞く場合の注意として、
相手の話の腰を折るな、最後まで話を聞いてから返答すべしと言われます。

 だからと言ってただ黙ってひたすらいつ終わるかわからない
とりとめのない言い分だけを聞き続ける事とは違います。

 却って最後まで話を聞いたとして、
この人はいったい何が言いたかったんだろう?
何が優先順位的に上位になる(相談)なんだろう?
といった迷路に迷い込むだけです。

 全てを話し終えた相談者からすれば、
これだけ意を尽くして話したんだから
一発回答で即解決に至るようなベストアンサーは確実と期待しがちです。

 そのようなときに、「この件は、こういう意味でしょうか?」等
初歩的な質問を返したら? 先方の期待は一気にしぼみます。

 あれだけの時間をかけて説明したのに、これか!?
 なんでその時に聞いてくれなかったのか?
 本当に親身になって聞いてきたのか?
 この人に相談したことが間違いだったかな?
 貴重な時間を無駄にした、二度と来ることはない…

 ほぼ瞬時にこのような思考に行き着くことでしょう。
下手をすれば同様の相談を考えていた知り合い等に親切心から「あそこはNG」
の烙印を押してくるかもしれません。

 信用だけが強みのこの手の仕事の場合、口コミや自身の経験談ほど
頼もしいものであると同時に、致命傷を負いかねない取扱注意の劇薬なのです。

 時間の浪費や相談者からの落胆・不信感を被らない為にも
聞き取り上手という意識を持つべきなのです。

 聞き取り上手とは、先方の話の合間を的確にとらえて
すかさず中間チェックを入れることから始まります。

 今までのお話を私はこういう理解をしてますよ、これでいいですね?
貴方のお話では今の考えはこういう一面も持ち合わせてます。
実際のところ、どちらをより意識していますか?

 これは話の腰を折るのではなく、先方の軌道修正にも効果的であり、
的確なタイミングでの質問や指摘は、腰を折られたとは感じず、
却って先方は私の話をちゃんと話を聞いてくれている、話を理解している、
少し自分の論点がずれていたようだ、修正しなくては。
といったプラス面での効果を生むことにもなります。

 その結果、話の途中でより安心感と信頼を植えつけるのです。

 最もやってはいけないのは、勝手な判断(拙速な判断)を下すことです、
こちらで先走って結論を口にすることです。

 先にも書いたように悩みや相談事がひとつとは限りません。
ひとによってはひとつづつ話の流れで説明をするタイプの方もいます。
そんな時、最初の比較的軽い案件を口にした直後の結論を放り込まれて
いい気分のはずがありません。

 下手をすればその時点で見限られてしまい、
その後に控えていた本命の相談事を口にしないまま強制終了。
無料相談でゲームセット、ということも大いにあり得るのです。

 その結果は相手は失望と不満が残るだけ、
 自分は一円の収入にもならず、時間を空費しただけ。
 双方何ら得ることのない結果では何をかいわんやですね。

 話しの腰は折られるわ、その上指摘内容は先走った的外れなものであれば
この人に相談解決を託そうとは思わないのが自然の流れです。

 あくまでも結論は相談者の口から発してもらうこと
そこに至るまでに必要な確認や指摘もそのタイミングに十分な配慮をすること

 これが本来の聞き上手という「強味」だと私は考えて、実践を心がけています。

【聞き流し・聞き捨て上手も必要です】

 これはある程度経験を積んでからでないと難しいかもしれません。
相手の口調や態度から探りを入れてきたような話題についてはスルーします。
聞き流すスキルも求められるのです。

 あえて探りを入れてきたような話題、軽い同意を求めてくるような考えは
一度はスルーして構わない、但し、再度同じ話を持ち出してくるようであれば、
その時は聞き取りに切り替えます。

 先方も言うだけならただ、反応してくれれば儲けもの、
この程度の要望を口にすることがあります。

 現実的な事例としては、
営業時には「もう一声!的にリベート率のアップやインセンティブの追加を。
現在の相談業務時には「ここは昔の誼でサービス価格で」といった打診です。

 否定すらせずにスルーすれば、
先方も検討に値しない申し出だったな、と普通は理解してその場は終わります。
ここであやふやな対応をしてしまうと、相手はしっかり記憶します。
その後、話の途中に態度を急変させて「前回は快諾してくれたでは?」
と都合のいい解釈を言い出すこともあるのです。

 良かれと思って全ての問いかけに真剣に対応することで
却ってより複雑な事態を招き入れてしまう。そして交渉決裂、喧嘩別れ?
これでは、先に述べたように双方何も得ることのない結果しか出ません。

 相手が勝手な解釈をした、都合のいい事だけ主張する…
事実そうであっても、相手につけ入る隙を見せたのは貴方の責任なのです。

 拙速な賛意や同意をすれば、どちらとも取れるような言い回しを繰り返せば、
相手はその前提で期待しますし、都合よく利用できる相手とマウントを取ります。

 初動でマウントされるような言質を取られない為にも軽々な結論は口にせず、
場合によって聞き流す力も相談業務には欠かせないものなのです。

【補記:話し上手は話させ上手】

 今回は聞き上手に関してのみ紹介する予定でしたが、話の流れで簡単ですが
話し上手になるためには、話させ上手を目指すということも紹介したいと思います。

 サラリーマン時代の失敗談ですが、
長年の取引先に対し今までの実績を評価してより有利なリベート契約を提示する。
自分自身も条件改善に随分上司に主張してきた、それに見合う実績も残してきた、
これは自分の営業力があってこそという邪心も含めて先方に出向いたのです。

 こちらから今回から〇%の好条件で契約が結べますと、先制したのですが、
先方は喜ぶどころか、「そんな程度か? 期待外れだ」となったのです。

 後でわかったことですが、先方も薄々実績を考えれば契約条件改善は想定し、
こちらがどういう条件を出すか、何とか先に言わせたいと考えていたのです。
そんなことはつゆ知らずに、見事先方の思惑通りに手持ちのカードを見せたのです!

 条件改善の事など臆面にも出さず相手側の話(要望)を聞き出せば(話させていれば)
恐らく最初の打ち合わせ時に条件改善の話をせずに、持ち帰るふりをして時間をかけ
その結果、この様な改定が叶いましたと持ち掛けていればよかったのです。

 話し上手の陥る失敗に、サプライズ効果を考えてしまう点があります。
いきなり衝撃的な内容を持ち出して先方の耳目をこちらに向かせます。
その後はこちらのペースで話を進めることが話し上手の「技」と。

 ですが、本当の話し上手は相手の手の内を先読みしてからの話し上手であること。
自分の手持ちのカードは相手の想定の上をいくものかどうか?
今日のカードが今日の相手にジャストフィットする内容かどうか?

 この話題から切り出せば,
成功間違いなし!といった独りよがりや思い込み、
自信過剰は常に戒めておきませんと、交渉のパターンが画一化したり、
二匹目のどじょうばかりを狙う内容の薄いものになりがちです。

 本当の話し上手とは、話させ上手であり、
 話させ上手とは相手の話を的確に聞き取れることに繋がるのです。 

 話させ上手で聞き取り上手。

 絶対の正解がない課題ですが、
少しでも近づければと思い日々の相談業務の前には納得のいく備えを検討する。
考え始めると迷路にはまり込むこともありますが、やりがいはある仕事ですね。

この記事を書いたプロ

寺田淳

シニア世代が直面する仕事と家庭の問題解決をサポートする行政書士

寺田淳(寺田淳行政書士事務所)

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