民法雑学 4 公立病院における診療債権、水道料金債権など自治体債権の消滅時効期間
エスカレートでの転倒事故と工作物責任
1.法律の規定
・民法717条第1項は、「土地の工作物の設置又は保存に瑕疵があることによって他人に損害を生じたときは、その工作物の占有者は、被害者に対してその損害を賠償する責任を負う。ただし、占有者が損害の発生を防止するのに必要な注意をしたときは、所有者がその損害を賠償しなければならない。」と規定している。
・ここでいう「工作物の設置・保存の瑕疵」とは,「工作物がその種類に応じて、通常予想される危険に対し、通常備えているべき安全性を欠いていること」の意味である。(最判昭和45年8月20日参照)。
・「通常予想される危険に対応する安全性が備えられているかどうか」を判断する場合、第三者や被害者の異常な行動による危険や不可抗力により生じた危険に対する安全性まで備えている必要はないとされている(最判昭和53年7月4日等参照)。
2.事実に適用
・建物内に組み込まれたエスカレーターは工作物に該当する。
・エスカレーターの使用に際して,買い物カートを利用することが禁止され、その禁止や注意が繰り返し告知されている場合は、顧客Aが買い物カートを持ったままエスカレーターに乗り、転倒し他の顧客Bに怪我を負わせたというとき、エスカレーターの設置・保存の瑕疵はなかったものと考えられる。したがって、顧客Aに対しても顧客Bに対しても損害賠償責任(工作物責任)は生じない。