M&A 10 救済M&A後の進路も難路
42.社外取締役の訓練と養成は、喫緊の問題
(1)コーポレートガバナンス改革前
我が国に、社外取締役というものは、以前から存在はした。
存在はしたが、会社法は、どんな会社にも、社外取締役の設置を義務付けることはしなかった。
それを、2003年に指名委員会等設置会社(当時は「委員会等設置会社」)制度を導入した時に、機関設計を指名委員会等設置会社にした会社においてだけは、社外取締役の設置を義務づけた。
しかし、我が国の上場会社の中で、指名委員会等設置会社に機関設計を変えた会社は、実に少なかった。
19年後の、2022年7月現在においてすら、指名委員会等設置会社の数は、全上場会社3770社中88社、比率にして2.3%しかいないのである。
そうであったから、上場会社に社外取締役を設置するという機運は起こらなかった。
(2)コーポレートガバナンス改革が始まった後
CGコードが策定・公表されコーポレートガバナンス改革が始まった2015年以後においても、指名委員会等設置会社の数は、全上場会社の2%強しかなく、社外取締役の総数は、高が知れたものであった。
たしかに、CGコードは、社外取締役の設置を促しはした。
促しはしたが、CGコードは、法律のような強制力はなく、CGコードを遵守(comply)しなくても、遵守しない理由を説明(explain)すれば責められることはなかったので、社外取締役を置かない会社の、社外取締役を置かない理由は、多くの場合、“時期尚早と考える”というワンパターンの理由であり、それがまかり通ったのである。
(3)2021年3月1日以後、社外取締役のニーズが急増
2021年3月1日、改正会社法の施行によって、監査役会設置会社にも、監査等委員会設置会社にも、上場会社の場合は、社外取締役の設置が義務付けられた。
かくて、それ以後、全上場会社に社外取締役が置かれることになった。
これにより、社外取締役は、ずいぶん増えた。
(4)プロとしての社外取締役養成の必要性
社外取締役は、上場会社の経営を監督する側面と助ける側面との二面をもったコーポレートガバナンスのプロである。
そうであるから、プロとしての訓練を受ける必要がある。
今は、いわばコーポレートガバナンス改革の揺籃期。
現実に社外取締役になった人材も、潜在的能力はあれど、直ちに上場会社の社外取締役としての仕事はできないであろう。
鉄砲を撃ったことのない戦士が、すぐに戦場に出ても、役に立たないように、社外取締役も訓練をしないと役に立たないであろう。
そう考えると、これからのコーポレートガバナンス改革の行く先は、社外取締役の訓練や養成ということになるであろう。
となると、社外取締役を養成する機関(大学でもいい、それを事業目的とした企業でもよい)が、やがて生まれるのではないだろうか。
いな、既に生まれているであろう。
ここで養成され、訓練された社外取締役でないと、会社法が求め、物言う株主が求める社外取締役としての自覚を持つことも、働きをすることもできないであろう。
日本の産業の30年にわたる低成長を、変えることもできないであろう。
社外取締役の訓練と養成は、喫緊の問題だと思われる。
これからは、大学や法科大学院に社外取締役養成コースが生まれることを期待する。