44.機関設計の比較論② 監査等委員会設置会社を創設した目的とその内容
12.事件・事故は、萌芽の内に摘み取るべし その方法論
(1)監査委員以外の社外取締役は、事前に事件・事故の発生を予見できない
上場会社に、連年、データねつ造事件が頻発しているが、これを、発覚前に、知ることができる者がいるとすれば、それは現経営陣(指名委員会等設置会社の場合は執行役、その他の機関設計の会社の場合は代表取締役や業務担当取締役)である。
社外取締役には、事件事故の潜在的存在を具体的に知る機会はない。
それは、社外取締役には、取締役会等に出席しても、議案として提出された案件以外については、見聞きできる機会はほとんどないからである。
では、監査委員になった社外取締役の場合はどうか?
監査委員になった社外取締役には、監査を通じて知りうる機会はあると思うが、次に述べる包括外部監査人ほどの効果は期待できない。
(2)地方自治法と同じ包括外部監査人制度を導入すべきである
会社法上の制度として、地方自治法にあるような、次のような包括外部監査人制度を導入すれば、不祥事の早期発見につながることは、相当程度期待できる。
① 人材
地方自治法での包括外部監査人は、弁護士や公認会計士等がなっているが、ここでいう包括外部監査人には弁護士がふさわしい。弁護士は仕事柄、事件・事故の原因究明には特殊な能力が養われているからである。
② 補助者
公認会計士を補助者にすべきである。会社に粉飾決算があれば、公認会計士のする財務DD(デューデリジェンス)によって、その事実は暴露されることになるからである。
③ 調査対象
包括外部監査人の調査は、問題になりそうな部署を定めて、かつ、テーマを1件だけ決めて、そのテーマについて深度深く、調査をする。
④ 包括外部監査人が得られる情報
包括外部監査人が得られる会社内の情報は、2022年6月1日に改正された公益通報者保護法のより制度化され、かつ、指定された「公益通報対応業務従事者」が作成した記録や当該従事者、それに公益通報者からの事情聴取が有効であろう。
2001年に雪印食品が、他社の倉庫内で、外国産の安価な牛肉を国内産牛肉のパッケージに詰め替えた産地偽装事件は、偽装工作に倉庫を悪用された会社社長がマスコミに通報することで公になったが、会社内の事件事故は従業員からでも第三者からでも、また、新たに会社法での包括外部監査人制度が導入されればそのニュースを知った国民多数からも、種々の情報が得られることと思われる。
⑤ 費用対効果
地方自治法上の包括外部監査人に支払う報酬は、各自治体が公表しているので分かるが、その報酬は、補助者への支払い分を含めて1千数百万円というところが多い。
会社法に包括外部監査人制度を導入しても、同程度の費用で収まると思えるので、費用対効果はよい。
ちなみに、全上場会社は、2023年6月以降開催される株主総会から、株主総会資料の電子提供制度が導入されることになった結果、年平均1億円程度の紙媒体の印刷経費が節減できることになった。
その一部を包括外部監査人制度費用に使えば、十分におつりが出る計算になる。
⑥ 包括外部監査人選任の時期
これは、毎事業年度のこととする。不祥事があろうがなかろうが、毎事業年度、包括外部監査人を選任し、その者と契約を結んで、監査をしてもらうのである。上場会社なら費用的にもできるはずである。
⑦ 効果
地方自治法上の包括外部監査人制度の下では、実に優れた監査報告が出されている。
上場会社も、このような制度をつくれば、今後、不祥事の数は、そうとう低下するものと思われる。
包括外部監査人制度の効果の大があり、また、不祥事を起こす経営陣に心理的抑止力が働くからである。
(3)弁護士と公認会計士との方法論の違いと協同の必要性
①弁護士の方法論は、判決の基礎になる訴状や準備書面に書かれた方法論である。ここでは、弁護士の事実認定の全てと弁護士の結論に至る思考のプロセスが全部見える。判決の中に書かれる詳細な事実認定とそこから結論を導く思考のプロセスと同じ方法論である。
②一方、公認会計士の方法論は、株主総会に提出される会計監査報告書に書かれた方法論である。
そこには監査意見は書かれるが、その意見を導いた公認会計士の思考のプロセスは一切書かれることはない。
③協同
包括外部監査人制度で、重要なアプローチは、むろん事実の“見える化”である。結論に至る思考のプロセスである。したがって、包括外部監査人は、弁護士の方に一日の長がる。
しかしながら、弁護士だけでは、粉飾決算などの違法行為を見抜くことはできない。
公認会計士の精緻な会計の分析がなければ、包括外部監査人制度は絵に描いた餅になってしまう。
包括外部監査人制度は、弁護士と公認会計士が二人三脚でする必要があるのだ。