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9 物言う株主(アクティビスト)が、上場会社に突きつけた刃

菊池捷男

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テーマ:コーポレートガバナンス改革

9 物言う株主(アクティビスト)が、上場会社に突きつけた刃

物言う株主(アクティビスト)が上場会社に向ける視線は、近時ますます厳しさを強めている。
では、どのような要求が、上場会社に対してなされているのか、例を、挙げてみたい。

(1)いわゆる政策保有株式の放出
 いわゆる政策保有株式とは、馴れ合いによる、株式の相互保有を言う。

 具体例で説明すると、「いなげや・忠実屋事件」のようなケースである。
この件は、秀和という不動産業を営む会社が、中堅スーパーマーケットの「いなげや」と「忠実屋」に対して、敵対的企業買収を開始したとき、「いなげや」と「忠実屋」は、これに対抗して、相互に相手方をホワイト・ナイト(白馬の騎士)とする第三者割当ての増資をしようとした。これに成功すると、「いなげや」も「忠実屋」も共に、秀和がそのときまでに買い占めていた株式の持株比率を希釈化でき、敵対的買収を阻止できると計算したからである。しかしながら、このような経営陣保身のための増資など、本来の増資目的に反するものであるから、東京地裁は、両者の第三者割当増資を差止めた。

いわゆる政策保有株式とは、このような相互持ち合い株式のことをいう。
物言う株主(アクティビスト)が上場会社に突きつけた第一の刃が、上場会社が持っているいわゆる政策保有株式の放出であること、当然のことである。
第三者割当増資という制度は、増資をするだけの資金需要があるときでないと許されないのである。
要は、経営陣の保身を許すための増資は、有されないのである。

(2)社外取締役への厳しい目
社外取締役には、経営陣に対する監視、監督の義務が課されている。
それだけに、物言う株主(アクティビスト)の社外取締役に対する視線は厳しいものがある。
特に、社外取締役が、経営陣から頼まれて就任したような人物なら、経営陣に厳しい姿勢で臨むことなど、期待できないので、そういう社外取締役にはアクティビストからも、厳しく当たられることになるのである。
であるから、物言う株主(アクティビスト)が望む社外取締役は、経営陣から望まれて社外取締役になった者ではないこと、できれば上場会社が指名委員会等設置会社に機関設計を変えた上で、独立性の高い指名委員会から指名された独立社外取締役が望まれるのである。

その基準を満たさない社外取締役を、会社提案の候補者にした場合は、アクティビストはこれに反対の議決権を行使し、アクティビスト自身が株主提案権を行使して推薦する社外取締役候補の選任議案に賛成する動きになるであろう。
実際に、近時、そのような株主提案が増えてきているのである。

(3)退任役員を法が認めない地位に付けることに反対する動き
我が国には、退任した代表取締役に、「顧問」などという、法律上の根拠も、定款上の根拠もないポストを与える慣習がある。これは、長年にわたって、会社の重要なポストに就いた人物に対する敬意の表れと見るべき慣習であるが、物言う株主(アクティビスト)、特に外資系アクティビストには、この慣習が理解されないようである。

外資系アクティビストは、根拠のない行為や、根拠のない役職は否定することになるので、上場会社は、法による経営を考え、必要ならば、定款に根拠規定を設けるなど、根拠作りをする必要がある。
文化の違いからくる、法に拠らない制度の創設は、すべきではないことになるからである。

(4)増配
近時、上場会社は、アクティビストの要求に応えて、配当金を増額させているようである。
配当は、株主の最も基本的な利益であり権利であるので、利益を十分に出している上場会社に対しては、増配を要求することは、自然な欲求と言えよう。
ところで、日本の上場会社の配当政策は、過去においては、安定配当の名の下で、利益の多寡にかかわらず、一定の金額の配当をするのが一般的であったようである。
しかし、これでは、上場会社の利益に連動した配当とはいえないだけでなく、指標となるものが具体化されていないので、どうしても配当金額は少なくなるようである(一般の、アメリカなど外国の会社の方が日本の企業よりも、高配当政策を採っているのも、この違いによると思われる。)。
であるから、株主は、配当に、一定の指標を用いることを、望んでいると思われるので、上場会社も、近時は、指標をつくり、それに基づいた配当政策を採る会社が増えている。

指標の一つとして、上場会社の毎期の税引後純利益に一定の割合を乗じてを配当金額を算出する配当性向という概念がある。
これなど、増益になれば、配当額が増額し、減益になれば配当額がその割合だけ減額するので、配当額を見るだけで企業の増減益の傾向が把握できるメリットがあるようだ。

他にも、指標とするものはあるようだが、いずれにせよ、現在時点における上場会社の配当政策は、かつてに比べ、大きく変わってき、配当額が増えてきているとのことであるので、これなど、物言う株主(アクティビスト)の功績と評価すべきことなのだろう。

しかし、このアクティビストの功績は、上場会社の経営陣にとっては、常に、尻を叩かれる大きな圧力になると言えるのではないかと思われる。しかし、これも株式を上場した会社のトップの宿命なのであろう。

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