コラム
コラム21 勝者の愚行
2021年8月31日
ウインストン・チャーチルは、辛辣な言葉ばかりを使っていたわけではありません。逆に、敗戦国に対し、その国民を慰め、希望を持たせる言葉も使っているのです。それは、第二次世界大戦後すぐに書いた随想録の中で、第二次大戦は「勝者の愚行」から起こったと書いた部分です。彼の言う勝者の愚行の一つは、第一次大戦の戦勝国の政治家が、戦勝国国民の敗戦国ドイツに対する復讐の激情を押さえることができず、ドイツに対し支払能力を遙かに超える賠償義務を課して現物資産を取り立てたことです。もう一つの愚行は、ドイツに軍隊を残したことです。彼の言によれば、勝者の第一の愚行によってドイツでは物価の高騰、ハイパーインフレの発生、ドイツの中産階級の没落、国家経済の破綻、それらの責任はユダヤ人と共産主義者にあるとする激しい憎悪の念を掻(か)き立てるナチズムの誕生と台頭を招き、ドイツに軍隊を残した第二の愚行とあいまって、第二次世界大戦が起こったというのです。チャーチルの言によれば、第一次世界大戦の勝者がすべきであったことは、第一次大戦の敗戦国ドイツから国土の一部を割譲(かつじょう)させ、あるいは国土を一定期間占領して、プロイセン以来の軍国主義の芽(め)を摘(つ)む一方で、第一次大戦で疲弊(ひへい)したドイツ経済の復興を助けることであり、これらは容易にできた(筆者注:日本が太平洋戦争で負けたときは、この手法が採られた)のだが、戦勝国は逆のことをしたというのです。チャーチルの言によれば、復讐としてした現物賠償の取り立てが、相手国に復讐(ふくしゅう)の念を呼び起こし、第二次世界大戦を招いたというのですから、いかに、復讐が、無意味かつ有害であるかが分かろうというものです。
彼が、この「勝者の愚行」という言葉を使ったことによって、第二次世界大戦の敗戦国ドイツの政治家も国民も慰められ、希望をもって戦後の苦難の道を歩き得たものと思われます。それは、ドイツ終戦の日から、ちょうど40年目の日。その時の西ドイツ大統領が、世界に向けて演説をした「荒れ野の四十年」の中で明確にされています。そのことは次コラムで紹介いたします。
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