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2020/08/12 ロータリーは、大廈の材の淵藪をなす(石川数正の例)

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テーマ:菊池捷男のガバナー日記

2020/08/12 ロータリーは、大廈の材の淵藪をなす(石川数正の例)

「大廈の材」(たいかのざい)とは、優れた能力をもった人材という意味の言葉である。
中国の書に「大廈(たいか)の材は一(いっ)丘(きゅう)の木にあらず」という言葉がある。意味は、宮殿のような大きな建物は、小さな山(丘)の木でできているわけではないというものであるが、ここから転じて、大をなす組織は必ず、大廈の材すなわち、衆に優れた能力をもった人材がいるという意味になる。
「淵藪」(えんそう)とは、魚が集まる淵と鳥獣が集まる藪を結合させた言葉で、わんさと集まる場所という意味になる。
私は、ロータリーは、大廈の材の淵藪だと考えている。
では、どのような人物が大廈の材といえるかは、既に楚漢の戦いの項で紹介した張良以下の人材などがそうだが、私は、彼らのように陽の当たる場面で活躍した人物だけではなく、地味な役割を演じながら歴史を展開させた石川数正なども、大廈の材の一人に挙げたい。

石川数正は、徳川家康の股肱の臣であった。
彼は、局地戦でしかない小牧・長久手の戦いで、家康が豊臣秀吉と互角以上の戦いをしたことに自信を付けた徳川家康麾下の三河軍団の中にあって、その後の秀吉の勢力が、海のうしおが満つるがごとく、津々と、世を覆い、いつしか徳川家康麾下の三河軍団では、戦っても絶対に勝てないほどの武力をつけてきているだけでなく、大きな時代の文化が、世論となって秀吉に味方し、家康ではとうてい歯が立たない大きな力の差を現出していることを知った。
家康も、その現実は理解したが、それを麾下の驚くべき戦力をもった三河軍団に言えば、三河軍団は秀吉を恐れ、その恐れが三河軍団を弱くするに至ることも認識していた。そこで、家康は、外にも内にも剛を装い、しかし秀吉とは和睦するほか道はないことを理解し、秀吉との外交交渉を一人、数正に一任した。
秀吉も家康の政治力や武力、それに三河軍団の強さを知っていたので、家康と戦うことで、せっかく到来しつつある平和を、戦国乱離の昔に戻す愚は避けなければならないと考え、家康と和睦するほかないことは知っていた。

このような時流と力関係を、透徹した眼光をもって読みえた人物は、秀吉や数正、家康のほかには、家康の股肱の臣、本多作左衛門くらいであるが、作左衛門は、石川数正を軟弱者と非難して軟弱外交反対の急先鋒を装うことで、数正を三河軍団の首領などから守りながら石川数正の外交を助け、他方では、家康を叱って、強さを維持したままの和睦を勧めるのであった。

かくて、豊臣秀吉と徳川家康の間には、虚々実々の外交戦が戦わされたのであったが、ある夜、数正は、岡崎城の城代の地位を投げ捨て、一族郎党を引き連れて出奔し、秀吉の懐に飛び込んだ。
その理由は、後世、謎とされているが、結果においてはその後、家康はメンツを保った和睦ができた。
すなわち、家康は、秀吉の妹の朝日姫の婿となり、秀吉との関係は、秀吉の家来ではなく義弟という形で秀吉の政治を助けることになったからである。このことは、秀吉の死後、天下の主になる布石の一つにもなりえた。

石川数正の出奔によって、家康が得たものは他にもある。それは徹底的な軍制改革である。それは、それまでの軍政や軍法はやがては石川数正を通じて秀吉側に筒抜けになってしまうという理由から、できたのである。
新しい軍法は、風林火山と書いた孫子四如の旗で有名な武田軍の軍法に、その後の技術や文化を織り込んで、作られたのである。
それやこれやを考えると、石川数正の出奔は、家康も承知のうえのものであったのではないかとの、後世の憶測もあるが、恐らくそうではあるまい。
高潔な人、ロータリアンなら手本にしてもよい、すずやかな人格の持ち主であった石川数正の、身を捨てた行為だと、私は考える。
その後の石川数正は、秀吉の懐に入り、家康のためでも秀吉のためでもなく、ただ天下のために、秀吉と家康が和睦するよう力を注ぎ、和睦を成立させている。
石川数正は、家康軍にあっては、裏切り者の烙印を押され、秀吉側にあっては、家康のスパイと警戒され、浮かぶ瀬もない日々であったろう。
しかし、数正は、ことわざでいう、“身を捨ててこそ浮かぶ瀬もあり”を、歴史に見せてくれた大恩人である。
すなわち、数正は、その後、深志城主10万石の城持大名に遇せられた。これは文字どおり、“身を捨ててこそ”得られた“浮かぶ瀬”であったといえよう。

以上、長々と書いたが、ロータリーには、このような大廈の材がゴマンといるということを、私は言いたいのである。

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