コラム
2020/08/13 千古の名文が生まれた瞬間
2020年8月13日
2020/08/13 千古の名文が生まれた瞬間
「敵艦見ゆとの警報に接し、連合艦隊は直ちに出動、之を撃滅せんとす。本日天気晴朗なれども波高し。」という文章は、日ロ戦争の天王山ともいうべき日本海海戦の戦端が、今まさに開かれようとする中で、発せられた電文である。
第1文は、連合艦隊幕僚室で起案して,参謀の秋山真之に提出。秋山参謀、これを見て、よし、と応えたが、兵士がそれを持って幕僚室へ帰ろうとしたとき、待て、と止め、その原稿の上に、さらさらと鉛筆で、第2文を書き加えた。その瞬間,歴史に残る、この千古の名文が誕生したのである。
参謀秋山真之は、「天気晴朗」によって視界が開けている様を、したがって、敵軍バルチック艦隊を見逃すことはないことを、「波高し」によって海が荒れていることを、したがって、豊富な軍事訓練を繰り返し満を持す日本軍が、長途の軍旅を経てきたバルチック艦隊よりも有利な立場にあることを、伝えたのだとされている。
いずれにせよ、簡にして要を得た2文から成る電文の文章。
これは、公用文である。
公用文でも、このような名文が書かれることもあるのだ。
秋山真之は、名文家として名高い。
このときのバルチック艦隊との戦闘模様についても、「敵の諸艦と殆ど舷々相摩せんとするが如く接戦し」という語句も残しているほど、表現力が豊かであった。
公用文といえば、判決書などその代表的なものだが、判決書に書かれた文章の中にも、名文はある。
「生命は尊貴である。一人の生命は、全地球よりも重い。」(昭和23年3月12日最高裁判所大法廷判決)という、法曹人の口に膾炙してきた文も生まれた。
この最高裁判決は、死刑制度に対し、正面から取り組んだもの。生命の尊厳と死刑制度の存置という重い問題に、真摯に、真剣に、取り組んだ結果の名文である。
文や文章は、長い歴史の中で,先人の叡智で磨かれ、匠の技を見せ、数多の名文、美文、格言などが生まれてきているのである。
公用文であるこれら文もしかりである。
ロータリアンも、ガイ・ガンディーカー(Guy Gundaker 1873~1960):RI(国際ロータリー)1923-24年度の会長)が、1916年に著した「A Talking Knowledge of Rotary」によれば、極めて短い時間内(ロータリークラブの例会の卓話は30分)に効果的なスピーチをすること、したがって、文章力の強化が、常に求められているようだ。
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