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特別支配株主による株式等売渡請求制度

菊池捷男

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テーマ:菊池と後藤の会社法

二 特別支配株主による株式等売渡請求
1.意味
菊池:ねえ、後藤くん。先ほど、君は、特別支配株主も、少数株主に対し、キャッシュ・アウトができる、という言い方をしたが、その制度のことを詳しく話してくれるかい?
後藤:ああ、いいよ。ここでいう「特別支配株主」とは、会社の株式(議決権)の9割以上を持っている株主のことだよ。会社法は、特別支配株主に、それ以外の株主が持つ株式の全部を、強制的に買い取ることを請求する権利を与えているのだ。これを「特別支配株主による株式等売渡請求権」というのだ。

菊池:何のためにこんな制度ができたのだい?
後藤:特別支配株主による株式等売渡請求制度は、株式を支配株主一人に集中するためだよ。だから、この請求は、当該売渡請求をする株主以外の株主全員に対して行わなければならないよ。これをすると、当該会社は、株主が一人だけの会社になるよ。

菊池:何故、株主が一人だけの会社にする必要があるのだい?
後藤:長期的視野に立った柔軟な経営の実現,株主総会に関する手続きの省略による意思決定の迅速化,株主管理コストの削減が、制度の理由とされているよ(坂本三郎編著『一問一答平成26年改正会社法第2版』参照)。

2.MBOで活用
菊池:では、特別支配株主による株式等売渡請求権は、どのような場合に、使われるのだい?

後藤:例えば、MBOをする場合に、この方法が用いられることがあるよ。すなわち、MBOというのは、「Management Buyout」の略語で、経営陣が、当該会社を買収することをいうが、はじめ経営陣が、株式の公開買付け(TOB)で90%以上の株式を手に入れることができると、残りの10%以下の株式に対して、この権利(特別支配株主による株式等売渡請求権)を行使するという方法だよ。そうすると、経営陣は完全に会社を支配できるだろう。そのときは、無論、MBOの対象会社が上場会社ならば上場廃止になるが、その方が、上場維持に伴う各種の規制を受けなくなり、費用、事務手続面の負担もなくなる効果もでるよ。

菊池:特別支配株主が会社の場合は、その会社が完全親会社になるのだよねえ。
後藤:そうだよ。完全親子会社の関係を作るために、この制度が活用されることもあるよ。

3.特別支配株主による株式等売渡請求権の行使方法等

菊池:ところで、特別支配株主による株式等売渡請求手続は、どうやって始めるのだい。
後藤:特別支配株主が,対象会社に対して通知を行うことで始まるのだよ。後の手続は、対象会社が進めることになるけどね。
   
菊池:対象になるのは、株式だけなのかい?
後藤:いいや、株式のほかにも、新株予約権,新株予約権付社債についても、売渡請求はできるよ。要は、株式又は株式になりうる権利が売渡請求の対象になるのだよ。

菊池:その売渡請求は、対象株主の意思に反してもできるのかい?
後藤:そうだよ。

菊池:売渡請求を受けた株主は、当然代価をもらうことにはなるよねえ。それは現金になるのかい?

後藤:そうだ。現金が支払われるよ。

菊池:この場合は、現金以外の財産が与えられるということはないのだね?
後藤:そうだよ。現金その他の財産が株式の対価になるのは、吸収合併などの組織再編といわれる場合だけだ。

菊池:特別支配株主による株式等売渡請求制度は、株式の譲渡に取締役会の承認を必要とする会社(非公開会社)の場合も、利用できるのかい?

後藤:無論、会社の規模や公開・非公開会社の別を問わず利用できるよ。

菊池:特別支配株主による株式等売渡請求をした場合に、売り渡すことになる株式の価格について争いが生じた場合は、どうなるのだい。
後藤:最終的には、裁判所に対し、その株式等の売買価格の決定の申立てをすることができるよ。

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