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遺言執行者観に関する謬説がなくなるまで⑪

菊池捷男

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テーマ:令和時代の相続法

11 謬説を正すための改正規定は、民法1015条の字句の削除のみにあらず

遺言執行者は、相続人の代理人であるとの謬説は、民法1015条が「遺言執行者は、相続人の代理人とみなす。」という文から生まれたもので、いわば21世紀の天動説といってよい謬説であることは前述したが、改正法は、ただ民法1015条の字句を削除したにとどまらず、次のような規定の改正をした。

(1)「遺言執行者は、その任務を開始したときは、遅滞なく、遺言の内容を相続人に通知しなければならない。」という規定を置いた。
 すなわち、改製前は、
民法第1007条は「遺言執行者が就職を承諾したときは、直ちにその任務を行わなければならない。」という規定だけだったが、2項を設け、「遺言執行者は、その任務を開始したときは、遅滞なく、遺言の内容を相続人に通知しなければならない。」という規定を置いた。
これは、相続人に対し、遺言執行者が就任したことを告げる規定である。
これにより、相続人は①遺言執行者が就任したこと、②遺言執行者は遺言の内容を実現する者であること(第1012条1項)、③遺言の内奥に遺贈がある場合は相続人には遺贈の執行の権限がないこと(第1012条2項)④相続人は遺言執行者のする遺言執行を妨害してはならず、それをしても法律上無効であること(第1013条1項2項)を理解できるようにしたのである。
要は、遺言執行者と相続人とは真っ向から利害が対立することを明らかにしたのである。


 (2)遺言執行者の立場を明確にする字句を追加した。
改製前の第1012条は「遺言執行者は、相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有する。」という規定であったが、改正法は、この条文の中に、遺言執行者は遺言の内容を実現するのが任務であることを明らかにするため、「遺言執行者は、遺言の内容を実現するため、相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有する。」という規定に改めた。
要は、遺言執行者は「遺言の内容を実現するための者」であることを明らかにしたものである、
これは遺言執行者を相続人の代理人であるという謬説を真っ向から否定した規定である。

(3)遺言執行者の権限を明確にした
遺言執行者の具体的権限について、改製前にあっては、相続人の廃除(別に戸籍法では「認知」の届出)くらいしかなかったが、遺贈と遺産の分割の方法を定めた遺言(特定財産承継遺言)について、具体的な遺言執行者の権限を明確にした。
ア その1 遺贈の執行
第1012条2項に「遺言執行者がある場合には、遺贈の履行は、遺言執行者のみが行うことができる。」との規定を新設した。これは、遺言執行者がある場合の遺贈の執行は相続人にはさせないという規定である。
イ その2 特定財産に関する遺言の執行
第1014条に2項「遺産の分割の方法の指定として遺産に属する特定の財産を共同相続人の一人又は数人に承継させる旨の遺言(以下「特定財産承継遺言」という。)があったときは、遺言執行者は、当該共同相続人が第899条の2第1項に規定する対抗要件を備えるために必要な行為をすることができる。」との規定と3項「前項の財産が預貯金債権である場合には、遺言執行者は、同項に規定する行為のほか、その預金又は貯金の払戻しの請求及びその預金又は貯金に係る契約の解約の申入れをすることができる。ただし、解約の申入れについては、その預貯金債権の全部が特定財産承継遺言の目的である場合に限る。」という規定を置いた。
要は、遺言執行者には、民法に規定された権限を行使する立場である半面、遺言執行者が相続人の命令に従う存在でないことを明らかにしたのである。

(4)相続人のした行為の効果を無効とする規定を新設した
改正法は、改製前の民法第1013条の「遺言執行者がある場合には、相続人は、相続財産の処分その他遺言の執行を妨げるべき行為をすることができない。」という規定に加えて、2項で「前項の規定に違反してした行為は、無効とする。」という規定を置いた。
これは、遺言執行者は相続人の利害に反することをすること、その場合は、遺言執行者のした行為を有効とし、相続人のした行為には法律効果が生じないことをあきらかにしたのである。

(5)遺言執行者の行為の効果を明確にする規定に直した。
そして、改正法は、第1015条の規定を「遺言執行者がその権限内において遺言執行者であることを示してした行為は、相続人に対して直接にその効力を生ずる。」と改めたのである。
要は、遺言執行者のしたことの法律効果は、相続人に不利なものでも、相続人に帰属することをあきらかにしたのである。

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