従業員との間の競業避止契約は、代償措置がとられていないと、無効
コーポレート・ガバナンス(corporate governance)とは、「企業統治」とか
「会社の運営機構」などと訳されているが、この言葉は、「望ましい会社経営」がなされているかどうかという観点から論ぜられるときの言葉であるので、「あるべき会社運営」「望ましい組織の経営」という文脈の中で使われている。
そう考えると、コーポレートガバナンスという言葉はなにも、会社にのみ使われるべきものではない。平成29年には地方自治法が改正され、都道府県知事と政令指定市の市長の義務にまでなったいわゆる内部統制システムの整備義務も、当然、コーポレートガバナンスの内容をなすことを思うと、医療法人、学校法人にも、また、国や自治体にも、使われてしかるべき言葉であると思われる。
コーポレート・ガバナンスに関する議論は、すでに70年近く前に、アメリカにおいて、会社経営者は、いかにあるべきかという観点からなされているが、当初は「バーリーとドットによる論争」という名で、有名であった(森田章・会社法の規制緩和とコーポレート・ガバナンス)。
コーポレートガバナンスが問題になった出来事の一つに、不動産バブルがある。不動産バブルとは、1986年(昭和61年)12月から1991年(平成3年)2月までの51か月間(景気動向指数上見られた期間)にわが国が経験した、不動産価格などが暴騰したことである。
その原因をたどると、会社の資金調達方法の変化にある。すなわち、会社は、少なくとも1989年頃までは、資金調達を主として(約80%程度)銀行の融資に頼っていたので、銀行から、資金の使途について監視され、会社内部でも慎重な投資判断がなされ、健全性が確保されていたが、その頃から、会社の資金調達がエクイティ・ファイナンス(増資などによる資金の取得=直接金融)の方に重点が移ったため、銀行に金余り現象が生じると同時に、銀行の融資審査もずさんになって、会社のガバナンスに対する大きな支え(外部規律)が崩れた(河本一郎・現代会社法)。
(A)銀行から融資を受け、銀行から社外取締役の派遣を受け、その監視の中で、会社が資金を運用する姿と、(B)直接公募増資などで、市場から返還する必要の無い資金を、いわばタダで調達し、誰からも監視されない中で、資金を運用する会社の姿を比べれば、分かるように、前者には他律の目があり、後者にはそれが全くないとない。となると、後者に不祥事が起こりやすくなること、火を見るより明らかと言うべきである。
後者の例としては、ライブドア事件がある。
ライブドア事件とは、2004年9月期年度の決算報告に、前年比経常利益が-120%で赤字転落をしたのに、+300%の大幅黒字増とする粉飾決算をし、それを元に約1600億円の公募増資をして資金を調達し、しかも、これらニュースが原因で株価が高騰したことを利用して、代表取締役社長が約145億円の持株売却をして暴利を得、代表取締役をはじめ取締役や公認会計士まで有罪判決を受けた事件である。
監査法人の公認会計士まで粉飾決算に荷担するようでは、なんぴともこの事件の発生は阻止できなかったものと思われる。
コーポレートガバナンスを確立させることは、自律的な規範では不可能であることを、この事件はよく教えている。