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要望ありて加筆せり  .ホールディングスが増えた理由

菊池捷男

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テーマ:菊池と後藤の会社法

1.意味
菊池:のう,後藤!最近ホールディングスという語が入った商号をよく見るが,ホールディングスとはどんな意味なんだい。
後藤:ホールディングスというのはなあ,本来,純粋持株会社をいう言葉なんだ。純粋持株会社とは,傘下に多数の事業会社を,完全子会社として持つ株式会社で,自らは事業をしない会社のことなんだ。ドイツ語でいう「コンツェルン」のことだ。しかし,同じ持株会社であっても,自らも事業をする会社もあるよ。これは,一般には事業持株会社といわれるがなあ。

2.財閥の解体と解禁
菊池:のう,後藤!コンツェルンといえば戦前の財閥だろう。歴史の本を紐解くと,戦後すぐ財閥は解体されたと書かれているがなあ。その財閥を意味するホールディングスという語が,最近復活したということは,財閥が解禁されたということなのか?
後藤:そのとおりだ。菊池よ!お前も知ってのとおり,我が国は,戦後間もなく(昭和22年)独禁法が制定されただろう。この法律は、GHQの要請を受けてできたものだが,そのとき,第9条で純粋持株会社の設立が禁じられたんだ。これが財閥解体の正体さ。これは,当時あった三井とか三菱という財閥が,日本の軍事力を支えた元凶だと,アメリカに思われたことによるのだが,これにより,我々は,長い間,“財閥は悪い”という誤った観念を持ってしまったよ。俺なども中学校ではそう教えられたものだ。しかし,財閥は悪いものではない。独禁法の生みの親であるアメリカでも,純粋持株会社は認められているんだからな。
菊池:後藤が,今言ったGHQというのは,マッカーサー元帥をトップに置いた連合国軍最高司令官総司令部のことだよな。要は、我が国が太平洋戦争でアメリカに負けた直後から,我が国を統治下に置いた国際組織,というよりも,実体はアメリカ政府のことだよなあ。このGHQが独禁法で純粋持株会社を禁止したというのは,敗戦国ゆえの制裁ということなのかい。
3 財閥解体の理由
後藤:そうとはいえないんだ。第二次世界大戦の敗戦国といえば,ドイツやイタリアもそうだが,両国とも純粋持株会社は禁じられていないんだからな。
菊池:では,何故,アメリカは,我が国にだけ,純粋持株会社,要は財閥を解体したんだい。
後藤:日本の軍隊の復活を恐れていたからだといわれているよ。
菊池:へ~。アメリカと日本,戦後はずいぶんうまくやってきたものと思っていたが,当初は,アメリカは日本の軍国主義の復活というか戦力の復活というかということを,恐れていたということかい。
後藤:そういうことになるなあ。考えてみろよ、わが国は、明治になってからわずかの期間で、世界でも最優秀なゼロ戦を作り、大和・武蔵という世界最強の戦艦を作った。アメリカは、日本を二度とこのような軍事大国にさせない政策をとったのだろうな。なにせかなり長い間、飛行機もロケットも作ることを禁じていたものな。

4 復活
菊池:じゃあ,話題を純粋持株会社に戻すが,その後,コンツェルンは復活したのだな。
後藤:そうだ。平成8年,アメリカが,我が国に金融市場の開放を迫ったとき,時の政府が,それを受け入れる条件として,純粋持株会社を解禁することをアメリカに承知させたんだ。
菊池:後藤よ!一つ疑問があるぞ。我が国は戦後すぐ,GHQの統治下にあったので,独禁法で純粋持株会社の設立が禁じられたのは分かるが,独立国になった後の独禁法の改正にまで,アメリカの同意が必要な関係が続いていたのかい。
後藤:確かに,我が国が独立国になった以後は(昭和27年以後)、独禁法を改正するのに,法的な意味でアメリカの同意は要らないよ。しかしだなあ,日本とアメリカは,アメリカの民間経済団体から,その後はアメリカ政府から,法制度その他で,種々の政策の要望や提言,したがって法制度に関する要望や提言をする関係が続いているのだ。だから,日本が独禁法を改正する場合も,特にGHQの要請で禁じられた純粋持株会社を解禁するのに,知らん顔でするわけにいかなかったんだよ。

5 年次改革要望書
菊池:なるほど。その点はよく理解できたが,また一つ疑問が出たぞ。アメリカからの政策提言や要望は,何故,当初アメリカ政府からではなく,アメリカの民間経済団体からになったんだい。
後藤:当初は、「日米財界人会議(1961年発足)」を通じて、アメリカの財界は、日本の財界との「共同声明」という形で(内政干渉を避けるため)、日本政府に政策提言していた。その中身は、貿易の自由化から、郵政民営化、合併手続きの柔軟化、証券市場や医療分野の規制緩和など多岐にわたるものであったが、その後、日本政府とアメリカ政府が政策提言しあう形で引き継がれ、相互に「年次改革要望書」という形で、政策提言しているが、アメリカの年次改革要望書が日本の法政策に与えた影響は大きい。

6 アメリカから受け入れた制度
菊池:なるほど,よく分かった。そこで,ついでに訊くが,アメリカからの政策提言ないし要望で,我が国が採用した施策ないし法制度というのは,どんなものがあるんだい。
後藤:これはたくさんあるぞ。例えば、郵政の民営化、裁判員制度・法科大学院の設置をはじめとする司法制度改革、独占禁止法の強化、労働者派遣事業の規制緩和、日本道路公団の民営化、また,旧商法、会社法(平成17年制定)の改正の中には、社外取締役制度の事実上の強制、資本金が1円でもよいとする規定、三角合併など,多くの法制度の導入がなされている。

7 金融開放要求の理由と金融ビッグバン
菊池:なるほどよく分かった。ところで話を戻すが,平成8年にアメリカが我が国に金融市場の開放を求めたときのアメリカの意図や,我が国の対応を教えてくれ。
後藤:アメリカが我が国に,金融市場の開放を求めたのは,当時,我が国の民間金融資産が1200兆円を超えたなどといわれ,アメリカの金融機関や証券会社にとって,これが垂涎の的になったということなのだ。俗っぽく言うと,よだれを垂らすほど,アメリカの企業は,我が国の金融市場に入って,一儲けをしたいと思うようになったということだよ。そこで,アメリカは、アメリカの経済界からの要請を受け,我が国に,金融市場の開放を求めたんだよ。
菊池:で,日本政府は,はいはいといって素直にアメリカの要請を受け入れたということなのかい。
後藤:いいや,我が国は,国際的な競争力を付けてきたからだろうと思うが,これを受け身で受け入れるのではなく,これを機に,イギリスに倣って,金融開放を積極的に行うことにしたようだよ。この金融市場の開放のことを,日本版金融ビッグバンと銘打ったところにも,その気持ちが出ていると思うがね。
菊池:じゃあ,その金融ビッグバンの中身はどんなもんがあるのかい。
後藤:外資による証券会社や銀行の設立,銀行等の投資信託の窓口販売の導入,株式売買委託手数料の完全自由化,証券デリバティブの全面解禁などだよ。

8 解禁を求めた理由
菊池:ところで,後藤よ。アメリカは金融開放を求めた。それに対し,日本は,アメリカに独禁法9条の撤廃の同意を求めたということになるが,日本からアメリカに対する,純粋持株会社の解禁を求めた理由は,何だったんだい。
後藤:アメリカは,フリー(自由),フェア(公正),グローバル(国際的)な競争を理由に金融市場の開放を求めたのでね,日本は,だったら,日本のみが純粋持株会社が設立できない状態で国際競争を強いられるのはフェアではないじゃないか。日本も,純粋持株会社の設立を認めてもらいたいと要求し,アメリカもノーとは言えなくなったということだ。


9 ホールディングスとの関係
菊池:我が国の金融市場の開放と,純粋持株会社すなわちコンツェルンの解禁は,言わばバーター取引みたいな感じだが,それはともかく,それとホールディングスとの関係は?
後藤:我が国で純粋持株会社が解禁されたのは,金融ビッグバンを受け入れた翌年になる,平成9年の独禁法の改正の時だ。それ以後,純粋持株会社が多数設立されたが,その時、ホールディングスという名称が使われるようになったが、このような名称の会社であっても、従来の事業持株会社についも使われていることから、厳格な意味で純粋持株だけに使われているわけではないよ。最近では、銀行,証券,保険会社を傘下に収めた金融持株会社にファイナンシャルグループという商号も見かけられるようになったな。
なお,純粋持株会社や事業持株会社を表現するのに,他にも「宗家」という言葉を商号に入れている会社もあるよ。

10 .ホールディングスのメリット・デメリット
菊池:ところで,後藤よ。持株会社(ホールディングス)を創るメリットは何だ?
後藤:メリットは,グループ全体としての迅速な経営意思の決定ができることと,グループ全体を最も効率的に経営できることだ。必要に応じてM&Aなどの手法を用いて,強い部分は更に強くし,弱い部分は事業譲渡などによって離していけるわけだ。純粋持株会社にぶら下がっている完全子会社に社長を送り込み、子会社同士では競争させないように、全体として最も効率よい経営ができるように、人的・物的資源を集中することができるからね。それから、税法上もメリットがあると聞いているが、これは専門家に聞いてみるとよいね。
菊池:では,デメリットは?
後藤:傘下に多くの完全子会社ができ,所帯が大きくなると,役員や従業員をしっかり把握できるか?グループ間に十分な連携がとれるか?などが指摘されているよ(親会社の取締役には、子会社に生ずる不祥事についてまで、責任が問われる場合のあることは、別項の「内部統制システムって何だい?」で触れることとする。)。



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