改正個人情報保護法の狙い ビッグデータを活用する新たな産業の創出
東京地方裁判所平成21年2月4日判決は、出版社に関しては、
1 法規範として、
①出版を業とする株式会社にあっては、出版物による名誉毀損等の権利侵害行為を防止する効果のある仕組、体制を作っておくべき義務があること、
②その場合、代表取締役は、業務の統括責任者として、社内に上記仕組、体制を構築すべき任務を負うこと、具体的には、
③第一に、記事の執筆に関与する従業員に対し、
a 正確な法的知識、
b 名誉毀損等の違法行為を惹起しないための意識
c 仕事上の方法論とを身につけさせること
方法論とは、例えば、
ⅰ弁護士等の法律家による講義や事例研究等による研修、
ⅱ出版物に記載しようとする事実についての真実性確認の方法としての取材のあり方、
ⅲ裏付取材のあり方等についての研修を行うなどの方法
d 事実の有無と根拠についての判断能力、慎重に記事を作成する姿勢をもたせること。
④第二に、出版物を公刊する前の段階で、
e 相応の法的知識、客観的判断力等を有する者に、記事内容に名誉毀損等の違法性がないかをチェックさせる仕組を社内に作ること、
⑤第三に、出版物を公刊した後の段階で、
f 客観的な意見を提示し得る第三者視点をもった者によって構成される委員会等を置いて、
ⅰ記事内容を点検させ、
ⅱ既に発行した出版物中の記事の適否を検討、協議し、
ⅲ名誉毀損等の権利侵害行為に該当する記事がある場合には、その原因を探究し、同様の権利侵害行為が再び惹起されることを防止するため、法的知識を確認したり、原因となった取材方法の欠陥を是正する方策を研究、考案するなどの方法
が考えられる。
⑥殊に、週刊誌を発行する出版社にあっては、しばしば名誉毀損が問題とされることがあるから、上記対策は、代表取締役として必須の任務であるというべく、いやしくもジャーナリストと称する以上、当該企業が、専ら営利に走り、自ら権利侵害行為を行ったり、権利侵害行為を容認することがあってはならないことは明らかである。
2 しかしながら、現実に出版会社がしたことは、
①一般的研修体制としては、
❶ 編集部で、弁護士を交えて名誉毀損等の勉強会を開き、編集部員全員を出席させていたものの、その頻度は、二年に一回程度にすぎず、その成果は、「何らかの認識が深まる程度」にとどまっていたこと、
❷ また、出版物発行前のチェック体制としては、発行雑誌ごとに担当取締役を定め、担当取締役が各編集部を監督する体制をとっていたが、本件で問題になった週刊誌の記事については、取締役のAに一任されており、Aは、毎週、原稿に目を通し、また、日常的に編集長と話し合っていたものの、個々の記事の内容の正否、当否の判断は、基本的に編集部がすべきであると考え、編集長の説明に対し、いくつか質問をする程度にとどまっていたこと、それ以外には、会社には、名誉毀損惹起を防止すべき仕組、体制は作られていなかったことが認められる。
3 名誉を毀損する出版物が発行されたことについて
原告らの名誉を毀損する本件各記事が週刊誌に掲載され、発行されるに至ったのは、
❸ 雑誌記事の執筆、編集を担当する記者、編集者等の名誉毀損に関する法的知識や裏付取材のあり方についての意識が不十分であったこと、また、
❹ 社内における権利侵害防止のための慎重な検討が不足していたことが原因であるというべきであり、
このような結果を惹起したのは、
❺ 被告会社内部に、これを防止すべき有効な対策がとられていなかったことに原因があるといわざるを得ない。
そうすると、被告B(代表取締役)には、前記任務を少なくとも重大な過失により懈怠したものとして、旧商法266条の3第1項(取締役に故意又は重大な過失がある場合は、取締役に第三者に対する直接の損害賠償義務を負わせる規定)に基づく責任があると解するのが相当である。
4 出版社の弁解に対する裁判所の判断として、
❻ 被告らは、被告会社では「編集権の独立」を尊重していると主張し、これを被告Bの責任がないことの根拠として主張するようであるが、出版を業とする株式会社の代表取締役に自社の出版物による名誉毀損等の権利侵害行為惹起を防止すべき責任があることは、前示のとおりであり、代表取締役が上記責任を果たすためには、上に例示したような社内の仕組、体制を整備する義務があるというべきであり、同義務が履行されることと被告らが主張する「編集権の独立」なるものとは、必ずしも対立、背反するものとは解することはできず、被告の上記主張は、被告Bの責任を否定する論拠とはならない。
と判示しています。
なお、1①aⅰ❶などの符号は、読者の理解に便利なように、著者が勝手に付けたものです。