従業員との間の競業避止契約は、代償措置がとられていないと、無効
1 善管注意義務
会社法330条は、「株式会社と役員及び会計監査人との関係は、委任に関する規定に従う。」と規定し、民法644条「受任者は、委任の本旨に従い、善良な管理者の注意をもって、委任事務を処理する義務を負う。」と規定していることから、株式会社の取締役等役員には、会社に対し、善良な管理者としての注意義務、いわゆる善管注意義務がある。
この善管注意義務という概念はドイツ法に倣って用いられるようになった概念である。
2 忠実義務
一方、会社法355条は、「取締役は、法令及び定款並びに株主総会の決議を遵守し、株式会社のため忠実にその職務を行わなければならない。」と規定していることから、取締役には、いわゆる忠実義務がある。この忠実義務なる概念は、昭和25年の商法改正の時に、アメリカ法に倣って導入されたもので、意味としての忠実義務は、自己の利益よりも主人(会社)の利益を優先して忠実に主人に仕えるべしというものであった。
3 善管注意義務と忠実義務の関係
以上から、取締役には、善管注意義務と忠実義務があるが、いずれの義務も、これに違反したときは、会社法第423条により「取締役、会計参与、監査役、執行役又は会計監査人(・・「役員等」という。)は、その任務を怠ったときは、株式会社に対し、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。」ことになるので、善管注意義務と忠実義務との違いについて議論する実益はなく、今日では、善管注意義務の中には忠実義務も含まれるという理解がなされている。
4 内部統制システム構築義務の根拠
商法(当時は会社に関する法律は商法に規定されていた)に、内部統制システム構築義務の定めがなかった時代に、法律上会社役員に内部統制システム構築義務あることを認めた大阪地裁判決は、その義務は「取締役としての善管注意義務及び忠実義務の内容をなすものと言うべきである。」と判示した。
なお、世上、「コンプライアンス」という言葉が急に使われるようになったのは、この判決以後のことである。内部統制ステムの構築義務を、コンプライアンスを遵守する義務だと考えると、この義務はすべての会社の義務ということは分かるであろう。
特にある程度組織が大きくなって、取締役が会社の業務執行全般につき、直接監視、監督することが困難になるような規模に達した会社は、内部統制ステムの構築の必要は大きいものがあると思われる。