ホールディングスのメリット・デメリット
3 黄金株の利用方法
菊池: で、後藤よ。黄金株の利用方法を教えてくれ。
後藤: 黄金株の利用方法の第一は、事業承継前のオーナー社長の権限維持だ。これはな、オーナー社長が、後継者を定めて経営権を渡していても、まだ経験の浅い後継者が経営の重要事項について、おかしな決議をする可能性がある。そこで、前オーナー社長がM&Aや役員の選・解任等の決議を拒否できる黄金株を発行してそれを持ってさえいれば、安心して経営を後継者に任せることができ、お目付け役的役割を果たすことができるということだよ。
第二は、ベンチャー・キャピタルによる利用だ。ベンチャー・キャピタルとは、将来上場を目指すベンチャー企業に投資し、上場することによる創業者利得(キャピタルゲイン)というハイリターンを狙った投資会社(投資ファンド)を指すが、そのためには投資先の会社の黄金株を握る必要があるんだよ。ベンチャー・キャピタルは、ベンチャー企業の経営をいつもそばで監督することはできないので、黄金株を握っていて、重要事項について必要に応じてコントロールすることができるようにするためだ。
第三は、敵対的企業買収に対抗するための利用だ。敵対的企業買収を目的とする者は、重要な決議をいつひっくり返されか分からない会社の株式などは買わないだろうからな。もっとも、これは他の株主の議決権を制限することになるので、前記のように、上場基準の関係で問題になるがね。ここでいう上場基準というのは、証券取引所が黄金株を発行した会社の上場を認める場合の基準のことだよ。
菊池:のう、後藤!去年出光興産事件があったときに、「株式の希釈化」という言葉が使われたことがあったよな。後継者である息子が取締役会を握り、親の株を希釈化するため新株を発行するというケースもないとはいえないわな。その場合に備えて、取締役会で新株発行を決議する場合の承認権を、黄金株の内容とすることもできるだろう。
後藤:そりゃ当然できるよ。その他にも、後継者が銀行借入をして大きな投資をする場合にチェックできるような、銀行借入決議などの承認権を、黄金株の内容とすることもできるよ。
菊池: 黄金株を発行している会社にはどんな会社があるか教えてくれ。
後藤: 上場会社の例だけどね、黄金株を発行した例としてはなあ、イギリスで1980年代に国営企業を民営化した際、政府が黄金株を握った歴史があるよ。わが国でも、小泉政権の民営化政策により旧石油公団を解体して国際石油開発株式会社を設立して上場したときに、政府が黄金株を握った例があるよ。いずれも黄金株は1株だったがね。なお、黄金株は非上場の会社向きの制度だよ。