社外取締役の有用性
4 証券会社の損失補填事件
「のう、後藤!独禁法の規定は、不明確な用語が使われていて、意味が分かりにくいと思わないかい?」
「そう思うよ。独禁法はなあ、アメリカの反トラスト法をお手本にしているため、字句は難解だ。そのため、会社は知らないうちに独禁法を犯すことがあるぞ。」
「そのような事件があったのかい?」
「菊池よ。お前は、N證券の損失補填事件を知っているだろう。」
「知っているよ。たしか、証券会社が、一部の顧客に対し、有価証券の売買等の取引により生じた損失を補填する行為は、独禁法に違反する、というものじゃなかったかな。」
「そのとおりだが、この件はなあ、N証券が、最初、公正取引委員会から、顧客への損失補填は、不公正な取引方法の一般指定の9に該当し、独禁法に違反するとして是正勧告を受けたことで始まったんだ。それを知った株主が、損失補填をした取締役に対し、損失補填によって会社に損害を与えたので、その損害額を会社に対して支払えという、株主代表訴訟を起こしたんだよ。のう、菊池!ここまではお前も知っていると思うが、実は、この株主代表訴訟だがなあ、最高裁判所は、次の判決のとおり、会社の取締役は、独禁法に違反して損失補填をしたが、損失補填が独禁法に違反することは知らなかったうえ、知らなかったことに過失もなかったとして、取締役の責任を否定したんだ。」
最高裁第二小法廷平成12年7月7日判決より抜粋引用
証券会社が、一部の顧客に対し、有価証券の売買等の取引により生じた損失を補てんする行為は、・・・一般指定の9(不当な利益による顧客誘引)に該当し、独占禁止法19条に違反するものと解すべきである。・・・しかしながら、被上告人(取締役)らが、・・・その行為が独占禁止法に違反するとの認識を有するに至らなかった・・・右認識を欠いたことにつき過失があったとすることもできないから、・・・被上告人らにつき・・・損害賠償責任を肯認することはできない。
「何とも不思議な判決だが、それはともかく、会社の取締役が、独禁法に違反することを過失なくして知らなくて独禁法に違反した場合でも、そのしたことが課徴金の対象になるものであれば、課徴金は課されるのだろう。」
「そのとおりだよ。会社の取締役に、独禁法違反の認識がなくとも、会社が独禁法に違反し、その違反行為が課徴金の対象になるものであれば、課徴金は課せられるからな。」
「そうなると、会社の役員等は、過去の独禁法違反事例をよく勉強し、独禁法に違反しないよう細心の注意をもって経営をしなければならないということになるなあ。」
「そうなるなあ。特に、優越的地位の濫用ってものは、思ってもいないときに、さあ違反した、課徴金だあってことになることもあるからなあ。」