コラム
当事者の変動と敷金返還請求権への影響
2017年9月26日
1,貸主の地位が、甲から丙に移転すると、敷金返還請求権の債務者も、また、移転する
貸主を甲、借主を乙とする不動産賃貸借契約における、目的物である不動産を、甲から丙に移転すると、甲乙間の不動産賃貸借契約上の貸主甲の地位が、買主丙に移転しますが、その結果、貸主は丙、借主は乙ととなり、元の不動産賃貸借契約の当事者は、丙(貸主)と乙(借主)になります。
図示
① 甲(貸主)、乙(借主)間の不動産賃貸借契約 →
② 不動産が甲に 丙に移転 →
③ 丙(貸主)、乙(借主)間の不動産賃貸借契約
この結果、①の不動産賃貸借契約で、乙が甲に預託した敷金についての、甲の敷金返還債務は、丙に移転します。
すなわち、敷金返還請求権の債務者が、甲から丙に移転するのです(判例・通説)。
2, 借主が変わっても、新たな借主が、敷金返還請求権を取得するものではない
貸主を甲、借主を乙とする不動産賃貸借契約における、賃借権(借地権又は借家権)を、乙から丙に譲渡する(民法612条により甲の承諾が必要)と、不動産賃貸借契約は、貸主甲と借主乙間の不動産賃貸借契約になります。
図示
① 甲(貸主)、乙(借主)間の不動産賃貸借契約 →
② 乙が賃借権を丙に譲渡する(貸主甲の承諾は必要。民法612条) →
③ 甲(貸主)、丙(借主)間の不動産賃貸借契約
この場合は、特約が結ばれない限り、①の不動産賃貸借契約上の甲の敷金返還債務が、丙に移転することはありません((最高裁昭和53年12月22日判決判例タイムズ377号78頁)。
この判例は、賃借権の譲渡が行われた場合には、「敷金交付者(旧賃借人)が、賃貸人との間で敷金をもって新賃借人の債務不履行の担保とすることを約し、又は新賃借人に対して敷金返還請求権を譲渡するなどの特段の事情のない限り、右敷金をもって将来新賃借人が新たに負担することとなる債務についてまでこれを担保しなければならないものと解することは、敷金交付者にその予期に反して不利益を被らせる結果となって相当ではなく、敷金に関する敷金交付者の権利義務関係は新賃借人に承継されるものではないと解すべきである」と判示しているところです。
関連するコラム
- 市街化区域の農地についての小作契約の解約と適正な離作料 2014-01-22
- 賃借人が賃借建物内で死亡していたとき 2012-01-15
- 賃貸借契約と転貸借契約はリンクするか? 2010-09-04
- 結ぶべきは、賃貸借契約か使用貸借契約か? 2013-12-27
- 親子の間の土地使用貸借 2013-07-26
コラムのテーマ一覧
- 時々のメモ
- コーポレートガバナンス改革
- 企業法務の勘所
- 宅建業法
- 法令満作
- コラム50選
- コロナ禍と企業法務
- 菊池捷男のガバナー日記
- 令和時代の相続法
- 改正相続法の解説
- 相続(その他篇)
- 相続(遺言篇)
- 相続(相続税篇)
- 相続(相続放棄篇)
- 相続(遺産分割篇)
- 相続(遺留分篇)
- 会社法講義
- イラストによる相続法
- 菊池と後藤の会社法
- 会社関係法
- 相続判例法理
- 事業の承継
- 不動産法(売買編まとめ)
- 不動産法(賃貸借編)
- マンション
- 債権法改正と契約実務
- 諺にして学ぶ法
- その他
- 遺言執行者の権限の明確化
- 公用文用語
- 法令用語
- 危機管理
- 大切にしたいもの
- 歴史と偉人と言葉
- 契約書
- 民法雑学
- 民法と税法
- 商取引
- 地方行政
- 建築
- 労働
- 離婚
- 著作権
- 不動産
- 交通事故
- 相続相談
カテゴリから記事を探す
菊池捷男プロへの
お問い合わせ
マイベストプロを見た
と言うとスムーズです
勧誘を目的とした営業行為の上記電話番号によるお問合せはお断りしております。