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LPガス販売契約を中途解約をした場合に課せられる違約金などの定めと、消費者契約法

菊池捷男

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テーマ:会社関係法

1 LPガス販売業者間の販売競争が熾烈

 LPガス販売業者が、顧客との販売契約時に、解約をした場合は一定の違約金を支払ってもらう契約を結んだ場合、有効か?
違約金の支払い約束ではなくて、設備費用の残存簿価を支払うという約束の場合は有効か?
という問題については、判例があります。いずれも難しいようです。
消費者契約法があるためです。

2 裁判例の1(違約金名下の請求)

 さいたま地方裁判所平成15年3月26日判決は、次のような事件で、違約金の請求を棄却しました。
この事件は、LPガス販売業者である原告が、原告と被告との間で締結されたLPガス販売契約に係る特約に基づき、被告に対し、同契約の解約に伴う約定違約金8万8000円及び遅延損害金の支払を求めた事案ですが、

基本的事実関係としては、
(1)原告は、LPガス販売等を業とする者である。 
(2)被告は、平成**年*月**日、原告との間で、LPガスの供給元を変更するためのガス切り替え工事の請負及びLPガスの販売供給を内容とする契約(以下「本件契約」という。)を締結した。
 本件契約では、被告がボンベ交換後1年未満でLP販売業者を変更した場合には、被告は、原告に対し、8万8000円の違約金を支払う旨の違約金条項が定められていた(以下「本件違約金条項」という。)。
(3)原告は、平成**年*月**日、被告宅において、ガス切り替え工事を実施し、ボンベ交換を行った。
(4)被告は、平成**年*月**日、原告に対し、本件契約を解約する旨の意思表示をした。

というもので、法的な問題としては、契約に基づく違約金の請求ができるかというものでしたが、
裁判所は、次のように判示し、LPガス販売業者からの違約金の請求を棄却しました。

【理由」
ア 本件契約は、消費者契約法が適用される。
イ 消費者契約法9条1号は、消費者契約において、契約の解除に伴う違約金条項を定めた場合、その額が・・・・・平均的な損害額を超える場合は、当該超える部分は無効と定めている。
ウ 平均的な損害額の主張立証については、事業者側が負担すべきものと解される。
エ ガス切り替え工事のために一定の工事費用や通信費等の事務費用等がかかることは想定されるが、いずれも高額なものではなく、本件契約が締結されてから解約まで約5か月経過し、原告はガス料金により一定限度これら費用を回収していると考えられること等に照らすと、平均的な損害額について原告から具体的な主張立証がない以上、本件において「平均的な損害」やそれを超える部分を認定することは相当でないというべきである。
オ よって、原告の本件違約金条項に基づく本件違約金等請求は全部理由がない。

3 設備費用名目による請求
 さいたま地方裁判所(第一審)平成16年10月22日 平成15年(ワ)第2012号設備費用請求事件(なお、この判決に対しLPガス販売業者は控訴及び上告をしましたが、いずれも棄却され、平成21年6月2日確定しました。
【事案の概要】 LPガスの販売業者である原告が、15年以内にLPガス供給契約を解約する場合には右設備の時価相当額を支払うとの合意をしたとして、右設備の残存価格の支払を求めた事案ですが、LPガス消費設備は各被告所有建物に附合しているので、原告にLPガス設備の所有権が留保されていることを前提とする上記合意は、無効であるとして、請求を棄却しました。

4、裁判例の2(残存簿価の支払いの約束に基づく請求)

東京高等裁判所平成平成20年12月17日判決は、LPガス販売業者が、消費者に対し、解約の場合は設備費用の残存簿価を補償金として支払うという約束に基づいて請求した事件で、LPガス販売業者の請求を棄却しました。
その一審判決もLPガス販売業者の請求を棄却しています。

この事件について、判決は、次のように判示しております。
【理由】
ア 本件の補償費の定めは、・・・単に被控訴人らが本件貸与契約を解約したときには何の対価もなく当然に被控訴人ら側に発生する金銭支払義務を定めたもので、その実体を直視する限りは、解約を原因として金銭の支払義務が一方的に発生するもの、すなわち解約に伴う違約金の定めと解すべきものである。
イ 本件補償費の実体が違約金と認められる以上は、同法9条1号により、貸与契約の解消により業者に生ずべき平均的な損害を超えて定められた違約金部分は無効というほかはない。
ウ そして、この件では、平均的損害について立証できていないので、LPガス販売業者の損害は認められない。

5、平均的損害の意味

以上、二つの裁判例によれば、LPガスの販売契約の中途解約による、LPガス事業者からの損害賠償請求は、違約金を定めた規定である場合と、LPガス販売業者が設置した、設備の残存簿価を支払うという規定であるとを問わず、平均的損害を超えるものは認められないということになります。
では、平均的損害とはなにかということが問題になります。
この点、前記高裁判決は、平均的な損害について、次のように判示しています。

① 控訴人は、被控訴人らとの間でLPガス消費設備及び給湯器の貸与契約を締結するに先立ち、自らの判断の下に各建物にそれらの設備を設置したのであるから、その設置に要した費用は被控訴人らとの間の契約解消による損害とはなり得ない。
 また、契約締結に関する事務処理費用については、契約の中途解約により契約が遡って失効するわけではないし、解約後に格別の費用が発生するというわけでもないから、その費用を損害と認めることはできない。

② 次に、契約の解消に伴い上記各設備の撤去に要する費用が問題となり得るが、上記認定したLPガス消費設備の敷設状況に照らすと、それらは各建物に付着して独立性を失い、社会経済上も建物と一体となったものとみるのが相当で各建物に付合しており、その所有権は各建物を有償取得した被控訴人らに帰属するものというべきである。・・・また、給湯器については、・・・控訴人にはLPガス消費設備及び給湯器の貸与に関する契約が終了した場合であっても、被控訴人らの所有に係る上記各設備を撤去すべき義務があるとはいえないから、その撤去に要する費用も控訴人に生ずべき損害ということはできない。
 そして、他に貸与契約の中途解約により控訴人に生ずべき損害の発生をうかがうべき資料もないから、本件各合意に定める補償費はその全額が消費者契約法9条1号の規定により無効というべきであって、被控訴人らにこれを請求することはできないものというべきである。 
 以上によれば、控訴人の被控訴人らに対する貸与契約に定める本件各合意(補償費給付の合意)に基づく請求はいずれも理由がなく棄却すべきものである。

6、LPガス販売業者から見た消費者契約法

業者としては、いったん確保した顧客であり、顧客の家にLPガスの供給設備や消費設備を無償で提供しているのであるから、契約が中途で解約された場合は、せめて投下資本の償却未了部分については、解約した顧客に請求したいと思うのが人情というべきものかもしれませんが、違約金という名目での請求は、それだけではダメ、設備費用の残本簿価の支払約束に基づく請求もそれだけではダメというのが、消費者契約法の考えですので、消費者契約法は、ただ業者の側にのみ、厳しいものになっております。

ただ、LPガス販売業者は、なんらの損害賠償の請求もできないというのではなく、LPガス販売契約が中途で解約されたことによる、直接的な損害については、賠償請求のできることが、これらの下級審判決の中に、含みとして判示されています。

7 消費者契約法に違反すると主張しない事案では、ガス販売業者の主張は認められる
 なお、東京高等裁判所平成18年4月13日判決は、 LPガス販売事業者が個人の自宅建物にLPガス供給設備等を設置し、LPガス販売契約を締結するとともに、これを解約する場合には、各被控訴人は控訴人に対してLPガス設備及び給湯器の所定の残存価格を支払うとの合意をした事案では、消費者の方で消費者契約法9条1号違反の主張をしなかったため、LPガス販売業者の請求を認めています。
なお、この件、LPガス販売業者のした請求の法律構成につき、高裁判決は、次のように判示しています。
「(本件合意として)、停止条件付き売買契約という法形式の外形にこだわることは適切ではなく,その意味で,LPガスの消費設備及び供給設備についての合意に関して,控訴人が,選択的にせよ,停止条件付き売買契約を主張しているのは,適切ではないといわざるを得ない。したがって,本件設備合意については,契約当事者が用いた文言に拘泥することなく,LPガス供給設備及びLPガス消費設備の設置費用の負担,これらの設備の帰属及び利用関係や,所定の耐用年数の全期間が経過する前にLPガス供給契約が被控訴人によって解除された場合における控訴人と各被控訴人との間の利益を調整することをその実質とする合意がされたものと解するのが相当である。」というものですが、消費者契約法の適用を求めなかったこの件では、業者の側が勝訴したのです。
“ 法は自ら助くる者を助く ”という諺どおり、消費者契約法違反の主張をしない消費者の場合は、LPガス販売業者に残存簿価を支払う義務があるのです。

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菊池捷男(弁護士)

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