ポレートガバナンス・コード改革が動き始めた② 代表取締役の解職をクーデターというのは、昔の話
最近、事業譲渡を巡る争いが増えている感がします。
1 商号の継続使用と譲受会社の責任
会社法22条1項は、(詐害事業譲渡に係る譲受会社に対する債務の履行の請求)との見出しで、
「事業を譲り受けた会社(「譲受会社」)が譲渡会社の商号を引き続き使用する場合には、その譲受会社も、譲渡会社の事業によって生じた債務を弁済する責任を負う。」と規定しています。
ただし、同条2項は、
①譲受会社が、事業を譲り受けた後、遅滞なく、本店の所在地において譲渡会社の債務を弁済する責任を負わない旨を登記した場合は、責任を負わず、
②事業を譲り受けた後、遅滞なく、譲受会社及び譲渡会社から第三者に対しその旨の通知をした場合においても、その通知を受けた第三者については責任を負わないものとされています。
ですから、事業譲渡をした場合、安易に、債務は引き継がれないと考えるのは危険です。
譲受会社が譲渡会社の商号を引き続き使用する場合には、前記①又は②の処置を執っていないと、譲受会社は、譲渡会社の事業によって生じた債務を弁済する責任を負うことになるからです。
2 事業の名称の継続使用の場合も、類推適用される
すなわち、会社法22条1項は、「譲受会社が譲渡会社の商号を引き続き使用する場合」をいう規定ですが、判例(高裁判所平成16年2月20日判決)は、商号だけでなく、事業の表示を引き続き使用する場合も、会社法22条1項を類推適用していますので、店舗名の俗用の場合も、譲渡会社の債務の弁済責任が生じます。
すなわち、同判決は、ゴルフ場経営事業についての事案で、
「預託金会員制のゴルフクラブが設けられているゴルフ場の営業においては,当該ゴルフクラブの名称は,そのゴルフクラブはもとより,ゴルフ場の施設やこれを経営する営業主体をも表示するものとして用いられることが少なくない。本件においても,前記の事実関係によれば,Aから営業を譲り受けた被上告人は,本件クラブの名称を用いて本件ゴルフ場の経営をしているというのであり,同クラブの名称が同ゴルフ場の営業主体を表示するものとして用いられているとみることができる。このように,預託金会員制のゴルフクラブの名称がゴルフ場の営業主体を表示するものとして用いられている場合において,ゴルフ場の営業の譲渡がされ,譲渡人が用いていたゴルフクラブの名称を譲受人が継続して使用しているときには,譲受人が譲受後遅滞なく当該ゴルフクラブの会員によるゴルフ場施設の優先的利用を拒否したなどの特段の事情がない限り,会員において,同一の営業主体による営業が継続しているものと信じたり,営業主体の変更があったけれども譲受人により譲渡人の債務の引受けがされたと信じたりすることは,無理からぬものというべきである。したがって,譲受人は,上記特段の事情がない限り,商法26条1項(現在では会社法22条1項)の類推適用により,会員が譲渡人に交付した預託金の返還義務を負うものと解するのが相当である。」と判示しているのです。
3 会社分割の場合のゴルフクラブ続用にも、類推適用される
最高裁平成20年6月10日判決は、事業譲渡の場合だけでなく、会社分割でゴルフ場の事業を承継する他の会社又は設立会社が、ゴルフクラブの名称を継続して使用する場合も、会社法22条1項が類推適用されると判示しました。