遺言執行を要する法定遺言事項③ 認知
配偶者の法定相続分は、1/2です。
この1/2という数字、多いか少ないかといえば、婚姻期間が長く、また、被相続人の財産の形成や維持に貢献した配偶者の場合だと、少ない、といえるでしょうし、婚姻期間が短く、被相続人の財産の形成や維持に貢献したことのない配偶者の場合だと、多すぎるといえるかもしれません。
1 余りに少なすぎる結果になる妻
法定相続分が1/2では少ないというのは、婚姻期間が長く、かつ、夫の財産の形成や維持に貢献した妻の場合、夫名義の財産は実質的には夫婦共有財産と考えられ、夫と離婚するときは、離婚に伴う財産分与として、夫から一定割合(1/2になる場合が多い)をもらい受けることができることが多く、その財産分与が1/2になる妻の場合、法定相続分が1/2しかないということは、夫名義の遺産の中にある妻の潜在的共有持分を取り戻した以上の効果はない、すなわち、実質的な相続権がないことになるからです。
2 法定相続分が過分になる妻
功成り名を遂げた、夫の後妻になった、という配偶者の場合、無条件で夫の財産の1/2を相続できるという法定相続分は過大になると評されることもあると思われます。
前妻の子と後妻と後妻の子が相続人という場合、前妻の子からみて、後妻が前妻の実質的な共有持分を含む被相続人の遺産の1/2を無条件で相続し、残った1/2を先妻の子と後妻の子が均等に相続することに大いなる不満を抱くケースもあります。
特に、先妻の子といわゆる後妻業者的な後妻が相続人の場合はなおさらです。
この「いわゆる後妻業」については、法制審議会民法(相続関係)部会第1回会議の議事録には、次のような記載があります。
「ちょっと卑近な話になりますけれども,昨年来の事件といいますか,社会問題としては,一つはいわゆる後妻業と言われておりますけれども,金持ちの高齢者を狙って結婚して,それで遺産の大部分を持っていくと,こういうのが一つです。
これはワーキングチームで検討した配偶者の貢献をどう評価するのかという部分で一応解決ができるかもしれませんけれども,この辺り,一からまたここで検討していただくことになるかと思います。もう一つは,これまたここのところ問題になっているのは,高齢者の養子縁組ですね。これまたお金持ちの,どちらかというと身寄りのない方を狙った形で,しかも認知症及び認知症の寸前ぐらいのそういう意思能力を持った方を狙った形で養子縁組をして,その財産を持っていく。こういうのも社会問題になっているようであります。」
3 ジレンマ
前記法制審議会民法(相続関係)部会第1回会議の議事録には、次のような記載があります。
「・・・相続人となる配偶者の中には,婚姻期間が長期間にわたり,被相続人の財産の形成又は維持に貢献している者もいれば,反対に,高齢になった後に再婚をした場合のように,婚姻期間も短く,被相続人の財産の形成又は維持にほとんど貢献していないというような者も想定されます。 しかしながら,現行法上は,配偶者の法定相続分,これは一律に定められておりまして,個別具体的な事情は寄与分において考慮されるにすぎないということになっておりますので,必ずしも当事者間の実質的公平が図れていないといった指摘もされているところでございます。 また,離婚における財産分与においては,配偶者に実質的夫婦共有財産,すなわち夫婦が婚姻中に協力して得た財産,これの2分の1を取得する取扱いが実務上原則化しつつあることからいたしますと,遺産の多くが実質的夫婦共有財産である場合には,配偶者は遺産分割において自己の実質的な持ち分,これを取り戻したにすぎず,被相続人の実質的な持ち分,すなわち名実ともに被相続人の財産となる部分から何ら財産を承継していないことになっているのではないかというような指摘もあるところでございます。 このような観点から,遺産分割におきましても,財産の形成に対する配偶者の貢献の有無及び程度をより実質的に考慮し,その貢献の程度に応じて配偶者の取得額が変わるようにすべきであるとの指摘がされているところでございます。 他方で,個々の遺産分割に関する紛争におきまして,遺産の形成に対する配偶者の貢献の有無及び程度を実質的に考慮するということになりますと,この点をめぐって当事者間で主張立証が繰り返され,相続に関する紛争がより一層複雑化,長期化するということが予想されるところでございます。 また,相続の場合には,離婚における財産分与の場合とは異なり,婚姻関係の当事者ではない他の相続人がこの点について主張立証しなければならなくなるため,これを適切に行うことができるのかどうかというような疑問がございまして,また,さらには結果に対する予測可能性,これの低下を招くというような御指摘もございます。 」
以上のように、妻の法定相続分を、生活実態に合わせて、実質的公平に定める、という考えはよ良いのですが、その実現の方策が、暗中模索といった状況にあり、ジレンマがあるところです。