コラム
建物賃貸借契約1年未満で解約をする場合の違約金は1か月分(裁判例)
2017年5月30日 公開 / 2017年9月8日更新
Q
当社は、戸建て住宅やマンションの専有部分の賃貸を業とする会社ですが、消費者との間に建物賃貸借契約を結ぶ際、消費者が契約開始より1年未満で解約する場合の違約金として賃料の2か月分を頂くようにしたいと考えていますが、有効ですか?
A
東京簡易裁判所平成21年8月7日判決は、建物賃貸借契約で、 賃貸借開始より1年未満で解約する場合に違約金として賃料の2か月分を支払うと定めた特約の有効性について、次のように判示し、1か月分のみを有効と判示しました。
同趣旨の裁判例は、同裁判所平成21年2月20日判決もありますので、違約金1か月というのが相場ではないかと考えます。
判決理由は次のとおりです。
「本件契約は,事業者たる被告と一般消費者である原告との間の消費者契約に該当する(消費者契約法2条3項),一般の居住用マンションの賃貸借契約である。賃貸借契約において,賃借人が契約期間途中で解約する場合の違約金額をどのように設定するかは,原則として契約自由の原則にゆだねられると解される。しかし,その具体的内容が賃借人に一方的に不利益で,解約権を著しく制約する場合には,消費者契約法10条に反して無効となるか,又は同法9条1号に反して一部無効となる場合があり得ると解される。
途中解約について違約金支払を合意することは賃借人の解約権を制約することは明らかであるが,賃貸借開始より1年未満で解約する場合に違約金として賃料の2ヶ月分,1年以上2年未満で解約する場合に違約金として賃料の1ヶ月分を支払うという本件契約上の違約金の定めが,民法その他の法律の任意規定の適用による場合に比して,消費者の権利を制限し又は義務を加重して,民法1条2項の信義則に反し消費者の利益を一方的に害するものとして一律に無効としなければならないものとまではいえない。
しかし,途中解約の場合に支払うべき違約金額の設定は,消費者契約法9条1号の「消費者契約の解除に伴う損害賠償の額を予定し,又は違約金を定める条項」に当たると解されるので,同種の消費者契約の解除に伴い当該事業者に生ずべき平均的な損害を超えるものは,当該超える部分につき無効となる。これを本件についてみると,一般の居住用建物の賃貸借契約においては,途中解約の場合に支払うべき違約金額は賃料の1ヶ月(30日)分とする例が多数と認められ,次の入居者を獲得するまでの一般的な所要期間としても相当と認められること,被告が主張する途中解約の場合の損害内容はいずれも具体的に立証されていないこと(賃貸人が当然負担すべき必要経費とみるべき部分もある),及び弁論の全趣旨に照らすと,解約により被告が受けることがある平均的な損害は賃料の1ヶ月分相当額であると認めるのが相当である(民事訴訟法248条)。そうすると,被告にこれを超える損害のあることが主張立証されていない本件においては,1年未満の解約の場合に1ヶ月分を超える2ヶ月分の違約金額を設定している本件約定は,その超える部分について無効と解すべきである。このことは,原告が本件契約時に礼金として賃料1ヶ月分相当の15万3000円を支払っていること,解約予告期間として最大で2ヶ月が設定され,本件でも2月9日の予告日から解約日3月31日まで50日間の猶予があったことを併せ考慮すると,解約時における賃貸人,賃借人双方の公平負担の観点からも妥当な結論であると解する。
したがって,被告が請求しうる違約金額は,賃料の1ヶ月分である15万3000円の限度と解するのが相当である。」
関連するコラム
- 結ぶべきは、賃貸借契約か使用貸借契約か? 2013-12-27
- 親子の間の土地使用貸借 2013-07-26
- 賃借人が賃借建物内で死亡していたとき 2012-01-15
- 賃貸借契約と転貸借契約はリンクするか? 2010-09-04
- 市街化区域の農地についての小作契約の解約と適正な離作料 2014-01-22
コラムのテーマ一覧
- 時々のメモ
- コーポレートガバナンス改革
- 企業法務の勘所
- 宅建業法
- 法令満作
- コラム50選
- コロナ禍と企業法務
- 菊池捷男のガバナー日記
- 令和時代の相続法
- 改正相続法の解説
- 相続(その他篇)
- 相続(遺言篇)
- 相続(相続税篇)
- 相続(相続放棄篇)
- 相続(遺産分割篇)
- 相続(遺留分篇)
- 会社法講義
- イラストによる相続法
- 菊池と後藤の会社法
- 会社関係法
- 相続判例法理
- 事業の承継
- 不動産法(売買編まとめ)
- 不動産法(賃貸借編)
- マンション
- 債権法改正と契約実務
- 諺にして学ぶ法
- その他
- 遺言執行者の権限の明確化
- 公用文用語
- 法令用語
- 危機管理
- 大切にしたいもの
- 歴史と偉人と言葉
- 契約書
- 民法雑学
- 民法と税法
- 商取引
- 地方行政
- 建築
- 労働
- 離婚
- 著作権
- 不動産
- 交通事故
- 相続相談
カテゴリから記事を探す
菊池捷男プロへの
お問い合わせ
マイベストプロを見た
と言うとスムーズです
勧誘を目的とした営業行為の上記電話番号によるお問合せはお断りしております。