継続的契約の一方的な解約は許されるか?
法の世界には「理」があります。
理とは、「理屈」の理であり、「理論」の理のことです。
しかし、この理は、法律の条文の中に書かれているわけではありません。
「理」は、最高裁判所の判決や決定の中で生まれるのです。
この、最高裁判所の判決や決定の中で生まれる「理」は、「判例」といわれます。
判例は、言わば、法的紛争解決への道標(道しるべ)です。
例えば、「預金は遺産分割の対象になるか?」という法的問題では、判例は、かつては、預金は遺産分割の対象にならないとしていたものを、平成28年12月19日最高裁判所大法廷の決定で、従来の判例を変更して、預金は遺産分割の対象になると判示しました。
この判例変更は、マスコミに大きく取り上げられましたので、ご存じの方も多いだろうと思います。
これにより、以後は、「預金は遺産分割の対象になる」という理で、遺産分割の審判などがなされることになるのです。
このように、判例は、法的紛争解決の道しるべになるのです。
理には、原則的「理」と応用による「理」があります。
ところで、実は、この最高裁大法廷決定の中には、判例変更にならなかった“もう一つの理”があるのです。
それは、原則的な理です。
“可分債権は、相続によって、相続人ごとに分割して承継される”という理です。
すなわち、従前の判例は、
①可分債権は相続によって相続人ごとに分割して承継される。
(その結果、可分債権は、遺産分割の対象にはならない)。
②預金は可分債権である。
③したがって、預金は遺産分割の対象にならない。
という「理」であったのですが、
新しい判例は、
①は変更せず、②のみを変更し、「預金は可分債権ではない」という理を立てたのです。
その結果、③で「預金は遺産分割の対象になる」という結論になったのです。
ですから、貸金債権や、損害賠償請求権などの可分債権は、遺産分割の対象にはならないのです。
前記判例変更後も、交通事故の遺族が、遺産分割をすることなく、それぞれの相続分に応じた、損害賠償請求ができるのも、この「理」によるのです。