労働 減給処分における減給額の制限
最高裁平成14年2月28日判決より抜粋
1 変形労働時間制の趣旨
労基法32条の2(平成10年法律第112号による改正前のもの。)の定める1箇月単位の変形労働時間制(昭和62年法律第99号による改正前の4週間単位のものもほぼ同様である。)は,使用者が,就業規則その他これに準ずるものにより,1箇月以内の一定の期間(単位期間)を平均し,1週間当たりの労働時間が週の法定労働時間を超えない定めをした場合においては,法定労働時間の規定にかかわらず,その定めにより,特定された週において1週の法定労働時間を,又は特定された日において1日の法定労働時間を超えて労働させることができるというものであり,・・・
2 適用要件
この規定が適用されるためには,単位期間内の各週,各日の所定労働時間を就業規則等において特定する必要があるものと解される。
・・・前記事実関係によれば,被上告人においては,月別カレンダー,ビル別カレンダーなるものが作成され,これに基づいて具体的勤務割である勤務シフトが作成されていたというのであり,これによって変形労働時間制を適用する要件が具備されていたとみる余地もあり得る。
そのためには,作成される各書面の内容,作成時期や作成手続等に関する就業規則等の定めなどを明らかにした上で,就業規則等による各週,各日の所定労働時間の特定がされていると評価し得るか否かを判断する必要がある。
・・・労働協約又は改正就業規則において,業務の都合により4週間ないし1箇月を通じ,1週平均38時間以内の範囲内で就業させることがある旨の定めをもって直ちに変形労働時間制を適用する要件が具備されているものと解することは相当ではない。
3 算出方法
変形労働時間制の適用による効果は,使用者が,単位期間内の一部の週又は日において法定労働時間を超える労働時間を定めても,ここで定められた所定労働時間の限度で,法定労働時間を超えたものとの取扱いをしないというにすぎないものであり,単位期間内の実際の労働時間が平均して法定労働時間内に納まっていれば,法定時間外労働にならないというものではない。
すなわち,特定の週又は日につき法定労働時間を超える所定労働時間を定めた場合には,法定労働時間を超えた所定労働時間内の労働は時間外労働とならないが,所定労働時間を超えた労働はやはり時間外労働となるのである。
したがって,・・・法定時間外労働に当たる時間を算出するには,4週間ないし1箇月を通じて1週平均48時間を超える時間のみを考慮すれば足りるものではなく,本件仮眠時間を伴う上告人らの24時間勤務における所定労働時間やこれを含む週における所定労働時間を特定して,これを超える労働時間を算出する必要がある。
4 割増賃金の基礎となる賃金
労基法37条所定の割増賃金の基礎となる賃金は,通常の労働時間又は労働日の賃金,すなわち,いわゆる通常の賃金である。この通常の賃金は,当該法定時間外労働ないし深夜労働が,深夜ではない所定労働時間中に行われた場合に支払われるべき賃金であり,上告人らについてはその基準賃金を基礎として算定すべきである。この場合,上告人らの基準賃金に,同条2項,労働基準法施行規則21条(平成6年労働省令第1号による改正前のもの。)により通常の賃金には算入しないこととされている家族手当,通勤手当等の除外賃金が含まれていればこれを除外すべきこととなる。前記事実関係によれば,上告人らの基準賃金には,世帯の状況に応じて支給される生計手当,会社が必要と認めた場合に支給される特別手当等が含まれているところ,これらの手当に上記除外賃金が含まれている場合にはこれを除外して通常の賃金を算定すべきである。