立法論としての相続法③ 配偶者の居住権の保護
受遺者又は受贈者がする価額の弁償は、財産ごとになしうる
遺留分減殺請求受けた受遺者や受贈者は、そのままなら、財産について、遺留分権利者と共有になってしまいます(最高裁平成8年1月26日判決)が、一個の財産を共有にすることは、複雑な法律関係を作りますので、好ましいものではありません。そこで、民法1041条1項は「受贈者及び受遺者は、減殺を受けるべき限度において、贈与又は遺贈の目的の価額を遺留分権利者に弁償して返還の義務を免れることができる。」と規定し、受遺者や受贈者は、共有にしたくない財産については、その財産にかかる遺留分の価額を、遺留分権利者に弁償することで、共有にならずにすむ道が開かれています。
要は、受遺者又は受贈者は、遺留分権利者から、遺留分減殺請求を受けた場合、現物(共有持分)の返還ではなく、その価額の弁償で、責任を果たすことができるのです。
その価額弁償も、全部の財産についてする必要はなく、一部の財産についてのみすることも可能なのです。
次の判例が、その理由を明らかにしています。
最高裁平成12年7月11日判決
受贈者又は受遺者は、民法1041条1項に基づき,減殺された贈与又は遺贈の目的たる各個の財産について、価額を弁償して、その返還義務を免れることができるものと解すべきである。
なぜならば、遺留分権利者のする返還請求は権利の対象たる各財産について観念されるのであるから、その返還義務を免れるための価額の弁償も返還請求に係る各個の財産についてなし得るものというべきであり、また、遺留分は遺留分算定の基礎となる財産の一定割合を示すものであり、遺留分権利者が特定の財産を取得することが保障されているものではなく(民法1028条ないし1035条参照)、受贈者又は受遺者は、当該財産の価額の弁償を現実に履行するか又はその履行の提供をしなければ、遺留分権利者からの返還請求を拒み得ないのであるから(最高裁昭和54年7月10日判決)、右のように解したとしても、遺留分権利者の権利を害することにはならないからである。このことは、遺留分減殺の目的がそれぞれ異なる者に贈与又は遺贈された複数の財産である場合には、各受贈者又は各受遺者は各別に各財産について価額の弁償をすることができることからも肯認できるところである。そして、相続財産全部の包括遺贈の場合であっても、個々の財産についてみれば特定遺贈とその性質を異にするものではないから(最高裁8年1月26日判決)、右に説示したことが妥当するのである。
なお、価額の弁償をするというのは、受贈者又は受遺者において、当該財産の価額の弁償を現実に履行するか又はその履行の提供をすることを要します。それをしなければ、遺留分権利者からの返還請求を拒めません(最高裁昭和54年7月10日判決)。