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遺留分法理② 特別受益の範囲の違い

菊池捷男

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テーマ:相続判例法理

2 特別受益は、遺産分割の際の具体的相続分を算出する場合と、遺留分の算定基礎財産額を算出する場合とでは、範囲が異なる

(1) 生前贈与の範囲
 ア 具体的相続分の算出要素としての生前贈与
 具体的相続分を算出する際の生前「贈与」は、相続人に対する「婚姻若しくは養子縁組のため若しくは生計の資本として」なされたものに限られます(民放903条1項)。
参照
民法903条1項 共同相続人中に、被相続人から、遺贈を受け、又は婚姻若しくは養子縁組のため若しくは生計の資本として贈与を受けた者があるときは、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額にその贈与の価額を加えたものを相続財産とみなし、前三条の規定により算定した相続分の中からその遺贈又は贈与の価額を控除した残額をもってその者の相続分とする。

 イ 遺留分算定の基礎財産額算出要素としての生前贈与
 この場合の生前贈与は、相続人以外の者への贈与なども含まれます.。
なお、民法1030条には、贈与は、相続開始前1年間にしたものに限ると規定されていますが、相続人に対する贈与はこの制限はありません(最高裁平成10年3月24日判決)。
相続人以外の者への贈与は、原則として、相続開始前1年以内のものに限られます(民法1030条)。

 アとイの違い
 これは、具体的相続分が、相続人間の公平を図るためのものであるのに対し、遺留分算定の基礎財産は、相続人(遺留分権利者)に被相続人の財産に対する一定の割合分を確保させるためという、目的の違いによります。
 ですから、具体的相続分を算出する場合の、生前贈与には、持戻し免除を受けたものは含まれませんが、遺留分算定の基礎財産を算出する場合は、持戻し免除の対象になった贈与も含まれます(最高裁平成24年1月26日決定)。

(2) 遺贈
遺贈も、具体的相続分を算出するためのものは相続人への遺贈に限られますが、遺留分算定の基礎財産を算出する場合は、相続人以外の者への遺贈も含まれます。

参照条文
民法1029条 遺留分は、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額にその贈与した財産の価額を加えた額から債務の全額を控除して、これを算定する。

民法1030条 贈与は、相続開始前の一年間にしたものに限り、前条の規定によりその価額を算入する。当事者双方が遺留分権利者に損害を加えることを知って贈与をしたときは、一年前の日より前にしたものについても、同様とする。

参照判例
相続人への贈与は、相続開始前1年より前のものも対象になる
最高裁平成10年3月24日判決
 民法903条1項の定める相続人に対する贈与は、右贈与が相続開始よりも相当以前にされたものであって、その後の時の経過に伴う社会経済事情や相続人など関係人の個人的事情の変化をも考慮するとき、減殺請求を認めることが右相続人に酷であるなどの特段の事情のない限り、民法1030条の定める要件を満たさないものであっても、遺留分減殺の対象となるものと解するのが相当である。けだし、民法903条1項の定める相続人に対する贈与は、すべて民法1044条、903条の規定により遺留分算定の基礎となる財産に含まれるところ、右贈与のうち民法1030条の定める要件を満たさないものが遺留分減殺の対象とならないとすると、遺留分を侵害された相続人が存在するにもかかわらず、減殺の対象となるべき遺贈、贈与がないために右の者が遺留分相当額を確保できないことが起こり得るが、このことは遺留分制度の趣旨を没却するものというべきであるからである。

参照判例:
贈与は持戻し免除されたものも、対象になる
最高裁平成24年1月26日決定
ところで,遺留分権利者の遺留分の額は,被相続人が相続開始の時に有していた財産の価額にその贈与した財産の価額を加え,その中から債務の全額を控除して遺留分算定の基礎となる財産額を確定し,それに遺留分割合を乗ずるなどして算定すべきところ(民法1028条ないし1030条,1044条),上記の遺留分制度の趣旨等に鑑みれば,被相続人が,特別受益に当たる贈与につき,当該贈与に係る財産の価額を相続財産に算入することを要しない旨の意思表示(以下「持戻し免除の意思表示」という。)をしていた場合であっても,上記価額は遺留分算定の基礎となる財産額に算入されるものと解される。

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