立法論としての相続法③ 配偶者の居住権の保護
1 判例から分かる遺言執行者の役割
最高裁判所平成5年1月19日判決は,遺言執行者を定める遺言書を書き,また,「1発喪不要。2遺産は一切の相続を排除し,3全部を公共に寄与する。」との遺言者を書いた遺言者の意思は,全遺産を相続人には相続させず,公益的な団体に寄付するもので,その具体的な寄付先は遺言執行者に一任したものと判示しました。
その内容は,次のとおりです。
最高裁判所平成5年1月19日判決
遺言の解釈に当たっては,遺言書に表明されている遺言者の意思を尊重して合理的にその趣旨を解釈すべきであるが,可能な限りこれを有効となるように解釈することが右意思に沿うゆえんであり,そのためには,遺言書の文言を前提にしながらも,遺言者が遺言書作成に至った経緯及びその置かれた状況等を考慮することも許されるものというべきである。このような見地から考えると,本件遺言書の文言全体の趣旨及び同遺言書作成時の実の置かれた状況からすると,同人としては,自らの遺産を上告人ら法定相続人に取得させず,これをすべて公益目的のために役立てたいという意思を有していたことが明らかである。そして,本件遺言書において,あえて遺産を「公共に寄与する」として,遺産の帰属すべき主体を明示することなく,遺産が公共のために利用されるべき旨の文言を用いていることからすると,本件遺言は,右目的を達成することのできる団体等(原判決の挙げる国・地方公共団体をその典型とし,民法34条に基づく公益法人あるいは特別法に基づく学校法人,社会福祉法人等をも含む。)にその遺産の全部を包括遺贈する趣旨であると解するのが相当である。また,本件遺言に先立ち,本件遺言執行者指定の遺言書を作成してこれを被上告人に託した上,本件遺言のために被上告人に再度の来宅を求めたという前示の経緯をも併せ考慮すると,本件遺言執行者指定の遺言及びこれを前提にした本件遺言は,遺言執行者に指定した被上告人に右団体等の中から受遺者として特定のものを選定することをゆだねる趣旨を含むものと解するのが相当である。このように解すれば,遺言者である実の意思に沿うことになり,受遺者の特定にも欠けるところはない。
そして,前示の趣旨の本件遺言は,本件遺言執行者指定の遺言と併せれば,遺言者自らが具体的な受遺者を指定せず,その選定を遺言執行者に委託する内容を含むことになるが,遺言者にとって,このような遺言をする必要性のあることは否定できないところ,本件においては,遺産の利用目的が公益目的に限定されている上,被選定者の範囲も前記の団体等に限定され,そのいずれが受遺者として選定されても遺言者の意思と離れることはなく,したがって,選定者における選定権濫用の危険も認められないのであるから,本件遺言は,その効力を否定するいわれはないものというべきである。
三 以上と同旨の理解に立ち,本件遺言を有効であるとした原審の判断は,正当として是認することができ,原判決に所論の違法は認められない。
この判例からも明らかなように,遺言執行者は,遺言者の委託を受けて,遺言者の遺志を実現する存在です。