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反社会的勢力を主債務者とする保証契約の効果(判例3)

菊池捷男

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テーマ:会社関係法

 最高裁判所第三小法廷は,平成28年1月12日,反社会的勢力を主債務者とする保証契約の効果に関し,信用保証協会と金融機関との間の保証契約は無効ではないという判決を言い渡したのですが,その時の判決の数は4件でした。
 そのうち3件で,原判決を破棄し事件を原審に差し戻しました(平成26年(受)第1351号事件,平成26年(受)第266号事件,平成26年(受)第2365号事件)が,平成25年(受)第1195号は,下記の理由から,原審判決を取り消し,金融機関から信用保証協会に対する保証債務全額の請求を認めました。

1 原判決の理論
 この件の原審の判決は,
⑴ 本件各保証契約が締結された当時,主債務者が反社会的勢力でないことは,本件各保証契約の当然の前提となっていた。しかし,実際には,主債務者であるAは上記当時から反社会的勢力であったから,被上告人の本件各保証契約に係る意思表示には要素の錯誤がある。
⑵ もっとも,上告人(金融機関)の本件保証契約1に基づく請求については,被上告人(信用保証協会)が錯誤無効を主張して同請求の2分の1を超えて履行を拒絶することは,信義則又は衡平の観念に照らして許されない。

と判示し,金融機関から信用保証協会に対する保証債務の履行請求を認めました。

2 原判決の不可解な理由
原判決は,
⑴で,信用保証協会と金融機関との間の保証契約に係る,信用保証協会の意思表示には要素の錯誤がある,と判断しているのですから,金融機関から信用保証協会へは,保証債務の履行の請求はできないはずですが,
⑵で,信用保証協会は,金融機関からの請求については,その2分の1を超えて履行を拒絶することは,信義則又は衡平の観念に照らして許されないと,判示しているのですから,この理屈は不可解としかいいようがありません。

すなわち,⑴の理論が採用されるならば,保証契約は無効になるのですから,金融機関は保証債務の履行は1円も請求できないのに,⑵では,その2分の1を認めているのです。原判決は,その根拠を,信義則や衡平の観念に求めていますが,信義則や衡平の観念という抽象的な価値観は,権利の行使を抑制する場面で使われはしますが,権利発生の根拠にはならないはずです。

3 最高裁判決
この原判決に対し,最高裁判決は,

①信用保証協会において主債務者が反社会的勢力でないことを前提として保証契約を締結し,金融機関において融資を実行したが,その後,主債務者が反社会的勢力であることが判明した場合には,信用保証協会の意思表示に動機の錯誤があるということができる。
➁意思表示における動機の錯誤が法律行為の要素に錯誤があるものとしてその無効を来すためには,その動機が相手方に表示されて法律行為の内容となり,もし錯誤がなかったならば表意者がその意思表示をしなかったであろうと認められる場合であることを要する。
③そして,動機は,たとえそれが表示されても,当事者の意思解釈上,それが法律行為の内容とされたものと認められない限り,表意者の意思表示に要素の錯誤はないと解するのが相当である。
④本件についてこれをみると,・・・その旨をあらかじめ定めるなどの対応を採ることも可能であった・・にもかかわらず,・・その場合の取扱いについての定めが置かれていない・・。そうすると、Aが反社会的勢力でないことという被上告人の動機は,それが明示又は黙示に表示されていたとしても,当事者の意思解釈上,これが本件各保証契約の内容となっていたとは認められず,被上告人の本件各保証契約の意思表示に要素の錯誤はないというべきである。 
と判示し,結局のところ,最高裁判所は,原判決を取り消し,金融機関から信用保証協会に対する保証債務全額の請求を認めました。

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