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反社会的勢力を主債務者とする保証契約の効果(判例1)

菊池捷男

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テーマ:会社関係法

金融機関と信用保証協会との間で保証契約が締結された後で,主債務者が反社会的勢力であることが判明した場合,その保証契約は当然に無効になるか?

最高裁判所第三小法廷平成26年(受)第266号平成28年1月12日判決は,後記政府や金融庁の指針から推して,金融機関と信用保証協会との間で保証契約を締結する場合は,主債務者が反社会的勢力でないことは保証契約の当然の前提となっていたといえても,その前提における錯誤は動機の錯誤であるので,その動機が表示され,それが保証契約の内容になっていない限り,錯誤を理由に無効とすることはできない,と判示しました。

すなわち,
⑴ 信用保証協会において主債務者が反社会的勢力でないことを前提として保証契約を締結し,金融機関において融資を実行したが,その後,主債務者が反社会的勢力であることが判明した場合には,信用保証協会の意思表示に動機の錯誤があるということができる。
⑵ しかしながら,意思表示における動機の錯誤が法律行為の要素に錯誤があるものとしてその無効を来すためには,その動機が相手方に表示されて法律行為の内容となり,もし錯誤がなかったならば表意者がその意思表示をしなかったであろうと認められる場合であることを要する。
⑶ また,動機は,たとえそれが表示されても,当事者の意思解釈上,それが法律行為の内容とされたものと認められない限り,表意者の意思表示に要素の錯誤はないと解するのが相当である(これまでの判例理論)。
⑷ 本件についてこれをみると,信用保証協会及び金融機関は,本件保証契約の締結当時,後記指針等により,反社会的勢力との関係を遮断すべき社会的責任を負っており,本件保証契約の締結前に主債務者が反社会的勢力であることが判明していた場合には,これらが締結されることはなかったと考えられる。
⑸ しかし,保証契約は,主債務者がその債務を履行しない場合に保証人が保証債務を履行することを内容とするものであり、主債務者が誰であるかは同契約の内容である保証債務の一要素となるものであるが,主債務者が反社会的勢力でないことはその主債務者に関する事情の一つであって,これが当然に同契約の内容となっているということはできない。
⑹ そして,金融機関は融資を,信用保証協会は信用保証を行うことをそれぞれ業とする法人であるから,主債務者が反社会的勢力であることが事後的に判明する場合が生じ得ることを想定でき,その場合に信用保証協会が保証債務を履行しないこととするのであれば,その旨をあらかじめ定めるなどの対応を採ることも可能であった。それにもかかわらず,本件基本契約及び本件保証契約等にその場合の取扱いについての定めが置かれていないことからすると,主債務者が反社会的勢力でないということについては,この点に誤認があったことが事後的に判明した場合に本件各保証契約の効力を否定することまでを金融機関及び信用保証協会の双方が前提としていたとはいえない。
⑺また,保証契約が締結され融資が実行された後に初めて主債務者が反社会的勢力であることが判明した場合には,既に上記主債務者が融資金を取得している以上,上記社会的責任の見地から,債権者と保証人において,できる限り上記融資金相当額の回収に努めて反社会的勢力との関係の解消を図るべきであるとはいえても,両者間の保証契約について,主債務者が反社会的勢力でないということがその契約の前提又は内容になっているとして当然にその効力が否定されるべきものともいえない。
⑻ そうすると,主債務者が反社会的勢力でないことという信用保証協会の動機は,それが明示又は黙示に表示されていたとしても,当事者の意思解釈上,これが本件保証契約の内容となっていたとは認められず,金融機関の本件保証契約の意思表示に要素の錯誤はないというべきである。 
旨判示して,原判決を破棄しました。

参照:判決がいう「指針」とは,
平成19年6月に,政府が策定した,企業において暴力団を始めとする反社会的勢力とは取引を含めた一切の関係を遮断することを基本原則とする「企業が反社会的勢力による被害を防止するための指針」,
平成20年3月に,金融庁が一部を改正した,「中小・地域金融機関向けの総合的な監督指針」
同年6月に,金融庁及び中小企業庁が策定した,「信用保証協会向けの総合的な監督指針」をいいます。

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