新しい契約書案 改正民法に合わせて①「瑕疵」という言葉は使わない
1 「業務」を特定できるだけの記載がなされているのか?
業務委託契約の目的として,①市場調査,➁マンション分譲事業計画の策定及び③それに関する業務の一切という言葉が書かれていた場合,それで受託者のすべき「業務」は,一義的明確に特定できているのかといいますと,できていません。
業務委託契約書で,しばしば問題になり,結果的に委託者に大きな損害を与えているのが,この「業務」の不特定性です。
このケースでも,①の「市場調査」の内容は不明確です。
どのような調査を,どのような方法でするかは,別紙を用いて詳細に書くべきですが,契約実務の現場では,これが全く書かれていない契約書が実に多いのです。
➁の「マンション分譲事業計画の策定」も同じく特定できていませんし,③の「それに関する業務の一切」というのも同じく全く特定できていません。
2 なすべき「業務」が特定できていないことから来る問題
なすべき「業務」が特定できていないということは,委託者は,受託者が,契約に定めた業務を履行していないとか,不完全な履行であるとかは,言い得ないということです。
これは,言葉を代えて言えば,委託者は受託者の債務不履行を理由とする契約解除ができないということになります。むろん,それによって生じた損害の賠償を請求することもできません。これが,この契約における“委託者の泣き所”です。
3 業務委託契約の特異性
他の契約,例えば,不動産の売買契約や,建築請負契約の場合は,題名だけで,ある程度契約内容は予測可能ですし,契約条項に不備があっても,民法の売買や請負に関する規定の適用を受け,契約当事者の権利義務がある程度分かります。
しかしながら,こと業務委託契約だけは,題名からは,内容は全く分からず,契約条項に不備がある場合,それを補ってくれる条文は皆無に等しいものになっているのです。
4 本件モデルケース
ここで取り上げた 業務委託契約における業務の①「市場調査」について,B社は,日経新聞,日経産業新聞,日経ビジネスなどの新聞や雑誌のコピーを集めただけの「資料編」が大半で,A社が知りたいと願っている,マンション建築をする場合の総工費,分譲価格,総経費,見込み利益額の算出方法及び根拠については,何ら書かず,ただ,坪あたりの建築単価,分譲価格を書いただけの1枚紙という有様でした。
A社が,これを見て疑問に感じたのは,総工費の単価が,契約締結前に,B社が示した金額と同じ額だった点でした。
実は,契約締結時点では,東京にオリンピックが誘致されることが決まっていなかったのが,契約締結後オリンピックの誘致が決まり,建築資材の高騰という現象が生じていたのですが,B社の「市場調査」には,そのことが全く書かれていなかったのです。ですから,マンションの総工費単価が,契約前と契約後半年も経った後では,異なるはずなのに,これを同じ金額とした調査は,明らかに間違いというべきだったのです。この点,B社の調査は,不備があったといえましょう。
しかしながら,この点の不備をもって,B社に債務不履行であると言いうるか,また,その不備を理由にA社が業務委託契約を解除できるかどうかは,疑問です。
(以下,明日のコラムに続く)