遺産分割におけるトラブル 番外編➁ 心配性の相続人からの注文
1 遺産の帰属性に争いがある財産は,原則として,遺産分割の対象にできない
相続人の一人である妻名義の不動産を,亡父の遺産だから,遺産分割の対象に入れるべきだ,というような,他の相続人名義の財産を,遺産だと主張して,遺産の帰属性(誰に帰属する財産か?)を争う相続人もいます。
遺産の帰属性につき争いのあると,原則として,遺産分割の審判はできません。ですから,このような争いが生じた場合は,早めに遺産確認訴訟を起こして訴訟で決着をつける必要があります。
私が,「はじめに」でご紹介しました,5年間遺産分割の調停を続けながら不調になった事件では,最初の調停開始時から4年経過時に,遺産確認訴訟が提起されています。そのため,当事務所がやり直し調停申立をした時は,相続開始時より12年,最初の調停申立て時より9年経過した後でしたので,その後1年かかったやり直し調停事件を含めると,この相続事案では,相続開始から13年,最初の調停申立て時から10年もかかってやっと,遺産分割ができたということになります。遺産確認訴訟の提起は,もっと早く決断すべきです。
2 裁判所の判断で,遺産分割の審判をすることも可能
財産の帰属性について争いがある場合でも,家庭裁判所は,帰属性が争われている財産の種類や性質,各相続人の職業その他一切の事情を考慮して,その係争財産を遺産と認定して,遺産分割の審判することができます(最判昭41.3.2)。
3 裁判所は,遺産確認訴訟中は,遺産分割を禁ずることもできる
逆に,裁判所は,遺産確認訴訟が起こされている場合で,その対象になっている財産が遺産であるか遺産でないかによって,遺産分割の内容に大きな影響を与えると考えれば,その訴訟の決着がつくまで遺産分割を禁ずることもできます(名古屋高決平15.3.17)。
4 訴訟への抵抗感をなくすことが大切
遺産の帰属性について争いが生じ,話し合いでは解決ができない場合で,遺産分割を望むときは,解決手段は訴訟しかありません。この訴訟の提起は,相続人間の大きな争いになりますので,躊躇するのが一般的な姿です。しかし,訴訟を起こさなければ,遺産分割はいつまでもできません。遺産の帰属性が争われたら,裁判所に決めてもらうという,割り切りを持つことが大切です。