相続税対策と従業員持株会
① 遺留分が侵害されたことを理由に,遺留分減殺請求をすれば,対象になった相続財産については,遺留分権利者と受遺者(「相続させる」遺言の受遺相続人を含む。)が,「遺留分侵害割合」(例えば1/4)と,「1-遺留分侵害割合」(例えば3/4))での共有になりますが,
➁ この共有は,遺産共有ではなく,共有物共有ですので,この共有状態を解消するのは,遺産分割ではなく,共有物分割になります(平成8年1月26日最高裁判所第二小法廷判決)。
したがって,例えば,
前提事実として
a 相続人が長男甲と次男乙。
b 「全財産を乙に相続させる」という遺言書がある。
c 全財産というのは,A土地とB土地のみ。
d 相続開始後,甲から乙に遺留分減殺請求訴訟を起こし,判決で,A土地及びB土地とも,甲が1/4の,乙が3/4の共有持分を有する共有状態になった。
という場合で,その後,
e 甲と乙は,お互い土地の共有を嫌い,協議の結果,A土地を甲が所有し,B土地は乙が取得するという合意を成立させた,という関係がある場合について,論じますと,
③ eの協議は,前述のように,遺産分割協議ではなく,共有物協議になりますので,
④ この共有物協議における財産の移転,すなわち,A土地に対する乙の共有持分3/4の甲への移転と,B土地に対する甲の共有持分1/4の乙への移転は,遺産分割ではなく(この場合は相続税以外の税金は生じない。),共有物分割による移転として,相続税とは別の課税関係が生じます。
⑤ 遺留分減殺請求の結果までは,相続税の課税関係(当初の遺贈の時点での相続税の課税関係は,その後の遺留分減殺の結果に基づく,甲の修正申告と乙の更正の請求で処理)しかありませんが,共有物分割では,相続税関係の処理の後の,贈与税や所得税の関係が生じます。
⑥ この理は,平成22年3月2日付名古屋国税局審査課長名の「相続財産の全部についての包括遺贈に対して遺留分減殺請求に基づく判決と異なる内容の相続財産の再配分を行った場合の課税関係について」と題する照会回答事例に詳しく書かれています。
結論としては,同照会回答事例には,
「財産全部についての包括遺贈に対して遺留分減殺請求権の行使に基づく相続財産の共有持分移転登記又は共有持分を認める旨の判決である本件判決とは異なる内容の相続財産の再配分を行った場合、その再配分は、遺産分割の対象となる相続財産としての性質を有しない共有持分権を有する共有物の再配分であると考えられますから、上記(2)でいうところの「当初の遺産分割協議後に生じたやむを得ない事情によって当該遺産分割協議が合意解除された場合など」及び「当初の遺産分割による財産の取得について無効又は取消し得べき原因がある場合」の遺産の分割の範ちゅうとして考えるべき場合には該当しないと考えます。したがって、相続人間で本件判決とは異なる内容の相続財産の再配分を行った場合には、原則として、相続人間で贈与又は交換等その態様に応じて贈与税又は所得税の課税関係が生ずることとなると考えます。」と書かれています。