使用者のための労働問題 普通解雇と懲戒解雇の違い
当然には,あるといえません。というより,親会社が使用者とみられる場合はありますが,非常に限定的なケースになります。
すなわち,労働組合法6条は「労働組合の代表者又は労働組合の委任を受けた者は、労働組合又は組合員のために使用者又はその団体と労働協約の締結その他の事項に関して交渉する権限を有する。」と規定しているとおり,使用者には当然団体交渉応諾義務がありますが,その親会社には,この規定の適用は受けません。
ただ,東京地方裁判所平成平成23年5月12日判決は,「一般に「使用者」とは労働契約上の雇用主をいうものであるが,労組法7条が団結権の侵害に当たる一定の行為を不当労働行為として排除,是正して正常な労使関係を回復することを目的としていることに鑑みると,雇用主以外の事業主であっても,当該労働者の労働者の基本的な労働条件等について,雇用主と同視できる程度に現実的かつ具体的に支配,決定することができる地位にある場合には,その限りにおいて,当該事業主は同条の「使用者」に当たると解するのが相当である。」と判示しています。
控訴審でもこの考えが支持されています。
とはいうものの,当該係争事件では,親会社が資本関係および出身役員を通じて子会社の経営に一定の支配力を有し、その経営上の意思決定が子会社の労働者の賃金等に影響を与え得てはいたのですが,それだけでは親会社は使用者とはみられていません。同事件の子会社である使用者は,労働者の賃金は当該子会社との団体交渉を経て決定しており,親会社がその過程に関与しているものでもなかったため,使用者とはみられていないのです。
なお,最高裁判所平成7年2月28日 朝日放送事件判決は,「雇用主以外の事業主であっても、雇用主から労働者の派遣を受けて自己の業務に従事させ、その労働者の基本的な労働条件等について、雇用主と部分的とはいえ同視できる程度に現実的かつ具体的に支配、決定することができる地位にある場合には、その限りにおいて、右事業主は同条の「使用者」に当たるものと解するのが相当である。」と判示していますので,子会社から従業員の出向を受けた親会社の場合は,労働者の基本的な労働条件等の決め方いかんによっては使用者とみられる可能性があるといえるでしょう。