契約書知識 15 契約書の記載事項(2)
これは昨日のコラムの応用問題です。
Q 当社は,文具その他の物品の小売業を営んでいますが,このたび甲株式会社の乙支社が経営する丙幼稚園より,丙幼稚園の園児や職員が使う文具その他の物品の継続的売買契約を結ぶように要請を受け,契約書には,甲株式会社の代表取締役社長でも,乙支社長でもない,附属の幼稚園長が記名押印する,ということの了解を求められました。
代表者でもない,幼稚園長の肩書きで契約を結んでも大丈夫でしょうか?
甲 株式会社
乙 支社
丙 支社が作った幼稚園
A 大丈夫です。
会社法14条1項は,「事業に関するある種類又は特定の事項の委任を受けた使用人は,当該事項に関する一切の裁判外の行為をする権限を有する。」と規定していますので,本件の幼稚園長は,甲株式会社が経営する丙幼稚園の経営に関して,幼稚園の経営上必要な裁判外の行為をする代理人とされますので,大丈夫なのです。
なお,商行為の代理については,本人のためになすこと(顕名)を表示しなくとも,本人にその効果が帰属するとされています(商法504条)すので,代理人という表示をしていなくとも大丈夫です。
仮に,幼稚園長に代理権限がない場合であっても,会社法13条は,「会社の本店又は支店の事業の主任者であることを示す名称を付した使用人は,当該本店又は支店の事業に関し,一切の裁判外の行為をする権限を有するものとみなす。」とも規定しています(表見支配人の規定)ので,大丈夫なのです。
なお,この場合,一支社の中の附属の幼稚園長という肩書きが「本店又は支店の事業の主任者である」といえるのかどうか疑問を持たれるかもしれませんが,最判昭和39年3月10日は,「本店から離れて独自の営業活動を決定し、対外的にも取引をなしうる地位にあつたと認められる」場合は,会社法13条でいう支店として認定していますので,本件においてもこの判例の射程圏内にあるといえます。
以上により,相手方の表示として「幼稚園長 某」とすることに問題はありません。